本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

『PLEASE PLEASE ME』(album)

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シングル「Please Please Me」が大ヒットしたことで、
「ここが稼ぎ時」とばかりに急遽アルバムの制作がスケジュール化されて、
既発売のシングル曲を除いた10曲が、たった1日でレコーディングされたことは
ファンであれば周知の事実であるかと思います。
厳密に言えば、2月11日にレコーディングされたのは11曲で、
アルバムに収録されなかった「Hold Me Tight」は、
次作『With The Beatles』のレコーディングでリメイクして収録されました。

 1963年3月22日イギリスで発売されると、
メロディメーカー紙のアルバムチャートで30週に渡り1位の座に輝きます。
意外だったのは1位を獲得するまでに、
チャートに10位で初登場してから5週間かかっていることで、
週ごとの上がり下がりの激しさが特徴のイギリスのチャートにおいて、
時間をかけて順位を上げていっています。
一部の熱心なファンを除けば、まだ存在を知られてなかったって事なんでしょう。

シングル「Please Please Me」のヒットから間髪入れずにリリースしたことが
当アルバムが記録的なヒットをした要因の1つではあると思うのですが、
そんな常套的な営業戦略だけで、連続30週も1位を守れるとは到底思えません。
ビートルズに対する巨大な需要がイギリス国内にあったからこその大ヒットだと思うのです。
当時の音楽シーンに物足りなさを感じていた音楽ファン、
あるいは物足りなさを自覚すらしていなかった音楽ファンが、
ビートルズを聴いた瞬間「これや!」と思ったんじゃないでしょうか。
イギリス人なので、関西弁は使わなかったと思いますが。
当時のヒット曲が、白飯に梅干しだけが乗っかった「日の丸弁当」だとすると、
それに対してビートルズの作品を例えるならば、
魚フライ、鶏のから揚げ、ちくわ天が乗っかったノリ弁が登場したようなもんで、
顕在的あるいは潜在的にお腹が満たされていなかった音楽ファンが、
ノリ弁ビートルズに食らいつくのは必然的です。

しかしながら、長らく僕はこのアルバムの凄さが理解できていませんでした。
悪いアルバムとは思ってませんでしたが、特別良いとも思っていませんでした。
それが、2009年発売のリマスターされたモノ盤を聴いた時に評価が一変しました。
CD化の際、不自然にピカピカのサウンドに加工された『PLEASE PLEASE ME』に聴きなれた耳には、
リマスター盤のサウンドは全く別物でした。
ゴツくて太くて荒々しいサウンドを聴いた瞬間、有無を言わさず心を根こそぎ持って行かれました。
このデビュー作の記録的なセールスは、
もちろん楽曲の良さとか歌や演奏の上手さも要因ではあると思いますが、
それよりも彼らの歌や演奏が音の塊となって、当時のイギリス国民を打ちのめしたのだと思います。
とりわけ、ジョンのヴォーカルの破壊力が抜群だったのに加え、
ジョージのギターの武骨なサウンドの貢献度が高いと思います。

アルバムのプロデューサーはジョージ・マーティン
録音の技術責任者はノーマン・スミスが務め、
この先もチームとしてビートルズの音楽制作に強く関わっていきます。

当初、ライブ演奏が持ち味のビートルズの魅力を伝えるべく、
キャバーンクラブでのライブ録音がジョージ・マーティンの発案で計画されますが、
構造的にレコーディング環境には適さないために断念し、
EMIスタジオでのスタジオ・ライブ形式に方針変更したと言われています。

それにしても、たった1日で10曲録音するのは無理があり過ぎると思います。
アルバム発売日および、ビートルズや制作スタッフのスケジュールの兼ね合いで
そうなったんだと思いますが、
それでもあと1日~2日くらいレコーディング日を抑えていても良さそうなもんです。
ヒットシングルを出したとは言え、駆け出しのアーティストにあまり費用をかけたくない、
レコード会社側のそんな意図があったのではとも思っています。
この後の彼らのセールスを考えると、レコーディング費用なんか安いもんだと思いますが。

アルバム収録曲は、シングルで既発売の4曲に加え、
新たなオリジナル曲が4曲とカバー曲が6曲の、計14曲で構成されています。
『LIVE AT THE BCC』で過去の彼らのレパートリーを知った時に、
『PLEASE PLEASE ME』に収録されたカバー曲6曲の選定基準を不思議に思いました。
この6曲よりも出来が良いと思える演奏が『LIVE AT THE BCC』に多く収録されていたからです。
恐らく『PLEASE PLEASE ME』に収録されたカバー曲は、ある基準に則ったものだと思います。
それは「ビートルズらしい」という基準。
ビートルズらしい」とは、2人もしくは3人のヴォーカリストの掛け合いが楽しめることです。
ジョンが「Too Much Monkey Buisiness」を、ポールが「Lucille」をいくら上手く歌えても、
ビートルズらしい」という基準に合わなかったから、
『PLEASE PLEASE ME』には収録されなかったのだと思います。
その甲斐あって、今作においてビートルズというバンドの色を打ち出すのに成功したと思います。
その反面、ロックンロール要素が薄れて、デビュー前からの熱心なファンは不満だったかもしれません。

とは言え、与えられたレコーディング時間の短さが功をそうして、
当時のバンドの勢いのようなものもレコード盤に刻み込む事に成功しました。
バンドのデビュー作としては大成功の作品ではないでしょうか。