本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

It Won't Be Long

元々はシングルを想定して作られた曲でしたが、シングルカットは見送られてアルバム収録曲に収まりました。レコーディングは7月30日に行われ、オーバーダビングも含めた23テイクのうち2つのテイクを編集して完成しています。

「From Me To You」「She Loves You」あたりでコード進行の引き出しを増やした彼らですが、この曲でも新たな試みに挑戦しています。いきなりはじまるサビの"Till I belong to you"の部分のコード進行は、AからEに遷移するところ間にA#m7-5を挟んでいます。Aから直接Eに進んでも問題ないんですが、A#m7-5を挟むことでグッと粋な感じな流れになっています。AメロはC→Eの繰り返しなんですが、普通の顔して登場するCがかなり曲者。Aメロの直前のサビでC#mが登場しているので、Aメロになって半音下のCが登場することに凄い違和感があります。って考えると、AメロはキーがCに転調して、ここで登場するEは本来Emあるべきところの代用コードと理解するとスッキリするのかなと思います。続くBメロ冒頭のE→D#aug→D6→C#7の流れにいたっては、E以外はノンダイアトニックコードのオンパレードで、この曲のキーを一瞬見失ってしまいます。それにしても、ここのコードの半音進行は快心の出来ではないでしょうか。多分ジョンはここを一番聴かせたかったのかなって思います。エンディングは、ノンダイアトニックのG7から、F#7→FM7→EM7と半音ずつ下降。ビートルズの楽曲で使われるのが珍しいメジャーセブンスの登場は注目ポイントであるのですが、何よりもこの曲は半音進行を楽しむ曲だと思います。「She Loves You」のレコーディングから1か月も経たないのに、この成長ぶりは一体何なんでしょうか。

このアルバムの特徴の1つとして、前作と比べるとオーバーダビングを多用しているところが挙げられます。しかしながら、この曲に関してはオーバーダビングはジョンのダブルトラックのヴォーカルだけのように聴こえます。ポールとジョージのコーラスはシングルだし、オーバーダビングした楽器もないように思われます。第17テイクがベーシックトラックで、第18~23テイクが編集テイクらしいですが、ジョンのヴォーカルのオーバーダビングだけでそれだけ費やすと思えないので、エンディングの切り貼りとかしたかもしれないですね。

リードヴォーカルのジョンと、コーラスのポールとジョージの掛け合いが楽しい一曲で、ジョンのヴォーカルに負けず劣らずポール/ジョージのコーラスにも勢いがあるのが良いですね。独特のコード進行とかコンポーザーとしての成長が感じられますが、頭でっかちな印象を与えないのは、ひとえに彼らのヴォーカルの力に拠るものだと思います。

聴きどころは満載で個人的には大好きな曲なんですけど、コード進行の新たな試みとかも楽曲全体で聴いてみるとやや消化不良気味なのが色々と惜しいなぁって思う次第です。シングルにはなりませんでしたけど、傑作アルバム『With The Beatles』のオープニングに打ってつけの曲だと思います。