本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

Please Mr.Postman

アルバムのA面ラストを飾るのは、「Till There Was You」に引き続きカバー曲です。オリジナルはモータウン・レコード所属のマーヴェレッツのデビューシングルです。

 この曲は彼女達のデビューシングルにしてビルボード誌のシングルチャートNo.1に輝きましたが、同時にモータウン・レコードとしても初のビルボード誌のシングルチャートNo.1となりました。この曲の歌詞は、グループのリード・シンガーであるグラディス・ホートンが、戦地に赴いた恋人からの手紙を待ち焦がれている実話に基づくもので、それを知ってしまうと切なさが倍増しますね。

1963年2月のヘレン・シャピロのイギリス国内ツアーにビートルズは同行し、その時の縁で彼女に「Misery」を提供するんですけど(採用してもらえませんでしたが)、その国内ツアーで彼女がレパートリーにしていた「Please Mr.Postman」を聴いて、ビートルズのメンバーはこの曲を覚えたそうです。オリジナルのマーヴェレッツのバージョンとヘレン・シャピロのバージョンを聴き比べてみると、ビートルズのバージョンはヘレンのバージョンに近いことが分かります。ちなみに、1963年2月時点のヘレンの年齢はたったの17歳で、その頃はビートルズよりもヘレンの方が格上でした。

この曲はたったの4つのコード、しかもキーAメジャーのダイアトニックコードだけで構成されています。その割に、コンポーザーに5人が名を連ねており、一体どんな役割分担だったのか不思議でなりません(笑)。それはともかく、こんなにシンプルなコード進行でこんな名曲が出来上がってしまうなんて、音楽ってほんと奥深いって思います。

メロディを担当する楽器が一つもなく、全ての楽器がリズムを刻むのに専念しています。ビートルズの全楽曲中コピーのし易さでは1・2を争う曲ではないかと思いますが、ビートルズのようなサウンドを再現できるかと言うと話は別です。特にギターの音を再現するのは非常に困難ではないでしょうか。僕にはギターが3本入っているように聴こえます。ステレオの左から聞こえる方が、ジョージのカントリー・ジェントルマンとジョンのリッケンバッカー325。そして、右の方からも薄っすら聞こえるギターの音がありますが、正直ギターの種類までは判別できません。ジョンがヴォーカルをオーバーダビングした時に一緒に弾いたと思うので、J-160Eをアンプに繋いだ音ではないかと(確実にリッケンの音ではない)。アレンジらしいアレンジが殆ど施されていませんが、エンディング近くの"Check it and see one more time for me"の部分、初期のテイクにはなかったブレイクを入れたことで、メリハリが効いて楽曲がグッと締まったと思います。

ダブルトラックのジョンのヴォーカルは、ガールズ・ポップのカバーらしからぬ迫力を感じます。喉だけで声を出すのではなく、お腹の底から声を出さないとこんな感じにはなりません。偉そうにジョンのように歌えるかのように語ってますが、決してそんなことはありません(爆)。しかもジョンは100%の力で歌っているのではなく、腹八分目というか少し余力を残してる感じで、ちょっと鼻にかかった声がこの曲の切ないメッセージがよりリアルに伝わってきます。ポールとジョージのコーラス・パートもメイン・ヴォーカルに匹敵する熱演ですが、とりわけポールの伸びのある高音は華があって楽曲のグレードを一段引き上げています。ジョンのヴォーカル、ポールとジョージのコーラスの楽しい掛け合いを聴いていると、この曲には余計なアレンジは不要であることが身に染みて分かります。

楽曲の完成度は「Till There Was You」の方が上かも知れませんが、ビートルズの数あるカバー曲の中では、個人的にはこれがNo.1だと思っています。

Helen Shapiro

The Marvelettes