本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

I Call Your Name

1963年にビリー・J・クレイマー&ザ・ダコタズに提供した曲のセルフカバー。ビリー・J・クレイマーのバージョンはシングル「Bad To Me」のB面曲としてリリースされ、「Bad To Me」はイギリスのチャートで1位を獲得しています。

 このシングル両面ともジョンが作曲していますが、ポールに比べるとジョンはあまり他人に楽曲を提供していないので、この気前の良さは意外な気がします。ビリー・J・クレイマーという名前はジョンが命名したそうなので、ジョンとビリーは親しい間柄だったのかもしれません。

ビリー・J・クレイマーの「I Call Your Name」はB面曲だったとは言え、楽曲の出来としては「Bad To Me」を上回っていたように思います。ビートルズのバージョンにはない電子ピアノの音色が効果的で、ギターなんか確実にこっちの方が上手いですよね(苦笑)。個人的にはこっちの方がA面に相応しいと思っています。

ビートルズのバージョンは、アルバム『A Hard Day's Night』のレコーディングの真っ最中の1964年3月1日、「Long Tall Sally」の次に録音されています。アルバム『A Hard Day's Night』制作中にレコーディングされたにも関わらず『A Hard Day's Night』色が薄いのは、ジョンがまだ16歳の頃(と言われています)に作っていた曲だからかもしれません。この曲のキーはEですが、EのダイアトニックコードにはないF#7とかC#7とかが多用されています。摩訶不思議なコード進行は、ノンダイアトニックコードを意識したものではなく、恐らく手癖で出来上がったような気がします。16歳だったかどうかはともかく、ジョンがデビュー前に作ったという信ぴょう性は高いと思います。

リッケンバッカー360-12(12弦ギター)がレコーディングで使用された5番目の曲です(「Can't Buy Me Love」「You Can't Do That」「I Should Have Known Better」「And I Love Her」の次。「And I Love Her」はリメイクでアコギにとって代わられましたが...)。イントロから登場する12弦ギターですが、モノラル盤とステレオ盤ではフレーズが微妙に違います。この曲は第7テイクに、第5テイクのミドルのギターソロを編集したものが完成品らしいのですが、第5テイクのイントロもモノラル盤かステレオ盤のどちらかに使われたんじゃないかと思います。ステレオ盤とモノラル盤のイントロの違いはそういうことかと思うのですがいかがでしょうか。12弦ギターは楽曲全編で登場しますが、オクターブ違いの立体的な響きが特徴の低音弦を中心としたフレーズの完成度は非常に高いです。リンゴはオカズを入れずにひたすらリズムを刻み、ポールも控えめに低音を鳴らしているように見せかけて、思いのほか自由にベースを弾きまくっています。コーラスもハモリもないので、さぞかしベースに集中できたことでしょう。

そしてこの曲のもう一つのポイントが、間奏でリズムが変化することでしょう。後年ジョンがこの曲について「ジャマイカのスカを意識した、最も初期の曲」的なコメントを残しているようですが、それは眉唾物だと思っております(苦笑)。ただ、何かヒントになる曲があったのではないでしょうか。この間奏のギターは、ジョージがカントリー・ジェントルマンを弾いていると思われます。

前述の通りコーラスもハモりもないので、ヴォーカルはジョンの独壇場。エンジニアのミスにより、ステレオミックスの最初だけシングルトラックになっていますが、ヴォーカルは楽曲全編ダブルトラックです。ビリー・J・クレイマーの「I Call Your Name」の出来にジョンは不満だったようなことを何かで見た記憶があるのですが、それは恐らくビリーのヴォーカルを指しているように思います。初期のジョンの楽曲は、哀愁漂う夕焼け感に満ち溢れた作風が特徴ですが、残念ながらビリーのヴォーカルからは沈む夕日を思い描くことができないんですよね。16歳の頃に作った曲にもかかわらず、こんなに哀愁漂わしてどないすんねんって感じですが、でもこれがミュージシャンとしてのジョン・レノンの核であると思うのです。

こっちはビリー・J・クレイマーのバージョン