本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

A Hard Day's Night

7枚目のシングル曲、かつ同名の映画のタイトル曲でもあります。リンゴの独り言が映画のタイトルに採用され、ビートルズはタイトルだけ決まっている曲を作るという課題を突き付けられますが、ジョンがその課題をクリアしました。レコーディングはアルバムのA面収録曲(映画挿入曲)の最後、1964年4月16日に行われました。9テイクを録音し、第9テイクがベストとして採用されています。

 この曲のレコーディングには、映画『A Hard Day's Night』の監督リチャード・レスターが立ち会っていたそうです。ミュージシャンの経験もあるリチャード・レスターが色々口出ししてレコーディングは大変だったようですが(苦笑)、そんな彼のおかげで楽曲の完成度が格段に上がりました。まず、映画のタイトル曲には衝撃的なイントロが必要だと要請されたそうで、イントロの「ジャーン!!!」はその要請に応えるかたちで生まれたものです。で、この「ジャーン!!!」のコードは何やねん談義が未だに続いてる訳ですが、ジョージは1984年の記者会見でこのコードについて質問を受けています。そこでジョージはFに1弦のGを加えたものと回答しています。と言うことで、ジョージはFadd9を鳴らしていたことになります。F9でなくFadd9なのは、Fメジャーとセブンスとナインスで構成されるF9に対し、Fadd9はFメジャーとナインスだけで構成されているからです。それにしても、記者会見でのあまりにも直球な質問に驚きますが、それに素直に答えるジョージにも驚かされます(笑)。ジョンとジョージのギターはFadd9を鳴らしてることが判明しましたが、それだけでは「ジャーン!!」の響きにはなりません。「ジャーン!!」の謎を解くため、コンピューターで音の周波数を分析する大学教授が登場したのですが、解決までには至りませんでした。近年になってようやく、録音時にテープの回転数を操作していたことが分かりました。「ジャーン!!」はジョージ・マーティンがピアノをオーバーダビングしているのですが、テープ速度を半分にして録音し、再生時に元のスピードに戻しているようです。オクターブ下の音で録音して回転操作を戻したのであれば、理論上は普通に弾いた時と同じに音になるハズですが、微妙に違って聴こえるんでしょうね。

リチャード・レスターからの要請はそれだけではありませんでした。楽曲のエンディングには「ドリーミーなフェイドアウトが欲しい」とのリクエスト。「何じゃそりゃ!?」って言いたくなるような注文ですが、そのリクエストへの回答がジョージの12弦ギターのアルペジオです。難しいプレイではありませんが12弦ギターの高音弦中心のフレーズのおかげで、キラキラしたサウンドになっています。これぞドリーミー!

リチャード・レスターのお節介のおかげで完成したこの曲は、今までのビートルズの楽曲と較べるとかなり分厚いサウンドになったような気がします。ステレオ盤では右にジョンが弾くJ-160E、左にジョージが弾くリッケンバッカー360/12、あと360/12の後方で薄っすらエレキギターの音が聴こえる気がします。"But when I get home to you,I find the things that you do"のところで単音のリフを弾いてるギターが、その部分以外はコードを鳴らしているのではと思います。ジョンのJ-160Eは妙な金属音も混じって聴こえるのですが、どこかで見た出典元不明の情報によると(苦笑)、エレキ用のミドルゲージのフラットワウンドを強くピッキングすると、この曲や次の曲「I Should Have Known Better」などで聞ける”キン!キン!”って感じの金属音が鳴るようです。ちなみにJ-160Eはアコースティック風のエレキギターなので、エレキ用の弦を使うことは特別なことではありません。

ジョージの360/12は、歌中は普通のコードストロークですが、12弦ギター独特のサウンドのせいでやたらと目立ちます。間奏はピアノとユニゾンで弾いてますが、レコーディングではテープ速度を半分にして録音しています。イントロの「ジャーン!!!」でピアノをオーバーダビングした際テープ速度を半分にしたのは、この間奏のレコーディングから思いついたアイデアではないでしょうか。レコーディング時はこの速いフレーズを弾けなかったジョージですが、その後のライブ演奏ではしっかり弾けるようになっています。

ポールは楽曲全編ほぼルート音のみ、目立たないフレーズを目立たない音で弾いています。唯一の見せ場は、ポールの歌うパートでコード弾きをしているのですが、注意して聞いていないと気付かないかもしれません。ジョージの曲ではやたらと張り切るのに対し、ジョンの曲だと控えめなプレーが多い気がします。これも親分ジョンに対する、ポールならではの忠誠心の表れなんでしょうか(苦笑)。

リンゴはシンバルを鳴らしながらひたすらバックビートを叩くのみ。オカズを入れないのはリンゴ自身の意思なのか、メンバーやジョージ・マーティンの要請なのか、この曲だけではないんですけど気になるところです。あとオーバーダビングでボンゴとカウベルを演奏しています。ボンゴは楽曲全編で超高速で叩いているので、オーバーダビング終了時に思わず"It's been a hard day"と呟いたに違いない!!テンポが速すぎるので、オーバーダビング時はテープの回転速度を落としているかもしれないですね。

この曲のキーはGメジャーで、ほぼダイアトニックコードで構成されていますが、"(And I've been)working like a dog"の部分がキーに対するⅦ♭番目のコード(Fメジャー)を使っているのがアクセントになっています。ジョン作曲ですが、"When I'm home~"のところがジョンが歌うには高くてキツいってことでポールが歌っています。少々キツイにしてもジョンは歌えたと思うし、むしろジョンの黄昏ヴォーカルの最高の聴かせどころだったと思うのに、敢えてポールに歌わせるってセンスがニクいなぁって思います。親分ジョンに対するポールの忠誠心は、こういうところから生まれるのかもしれません(笑)。映画のタイトル曲をジョンとポールがヴォーカルを分け合ったことは、ジョンだけでなくポールもいるよ~って顔見世の意味で、興行的にも良かったのではないでしょうか。

この曲を作った時点でオープニングの映像が出来ていたのか定かでありませんが、彼らはこの映像をイメージしながら楽曲を作ったんじゃないかって思うくらい、楽曲がオープニング映像に絶妙にハマってますよね。このシーンの撮影は、ロンドンのメリルボーン駅で行われました。随分前ですがロンドン旅行の際に訪れ、あの騒乱はここで撮影されたんだよなぁと思いに浸りました。駅横のボストン・プレイスという路地でファンに追われるシーン、そこにはポールはいないってことに、さっきYoutubeで映像を見て今更ながら気づきました(苦笑)。

曲良し!歌良し!演奏良し!
実験的なことを行いつつ、シングル曲としても映画のオープニング曲としても大成功を収め、言うことなしの大傑作。ビートルズ初期を代表するだけでなく、1960年代のポップミュージックを代表する1曲ではないでしょうか。

ジョージがイントロのコードについて言及してるシーン