本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

I'm Happy Just To Dance With You

レコーディングは1964年3月1日に行われたのですが、これは彼らにとって初の日曜日のレコーディングとなりました。翌日3月2日から始まる映画『A Hard Day's Night』の撮影に、何とか間に合わす為の処置だったと思います。最初に「I'm Happy Just To Dance With You」が録音され、次に録音された「I Call Your Name」も当初は映画に使われる予定でした。後に「A Hard Day's Night」を録音したことで、「I Call Your Name」はEP盤に回されることになりました。と言うことで、この曲のレコーディングは映画の撮影開始まで待ったなしの状況でした。映画用の曲があと2曲足りない状況で、何か何でも完成させなければいけなかった曲です。ビリー・J・クレーマーに提供した「I Call Your Name」をセルフカバーしていることからも、切羽詰まった状況だったことが伺われます。

 ジョンがこの曲について、最初からジョージが歌うことを念頭に作ったようにコメントしてるのを見た記憶がありますが、多分それは後付けの言い訳じゃないかと思います。切羽詰まった状況で何とか捻りだした曲に満足することができなかったため、自分が歌うくらいだったらジョージにくれてやれ、って感じの経緯だったのではないでしょうか。以前書いた通り、彼ら初の主演映画のサントラ盤は、同時にアメリカ制覇に向けて勝負をかけたアルバムだったはずで、当時のバンド内の力関係から推測すると、ジョンまたはポールのヴォーカル曲で全曲を占めるという考え方があっても不思議ではありません。映画の撮影開始まで後がない状況で出来上がった「I'm Happy Just To Dance With You」がジョンの納得いく曲だったら、リンゴだけでなくジョージのヴォーカル曲もアルバムに収録されなかったのではと思っています。

出来が良くないって前提でここまで書いてきたのですが、個人的にはこの曲のことが大好きなのです(苦笑)。僕が知りうる限り、この曲について好意的なコメントを見た記憶がないのですが、世の中のビートルズファンの総意なんでしょうか。映画では、ビートルズが演奏する前、ダンサーが踊ってるシーンでこの曲のピアノ演奏が聴けるのですが、小粋なメロディの佳曲だと思いませんか?

この曲に対する世の中の評価が低いのは、ひとえにジョージのヴォーカルのせいだと決めつけておきます(笑)。ぶっきらぼうで、聴いていて楽しそうな感じがしませんよね?これはジョージのやる気がなかったのではなく、この曲の歌い方をジョージ自身よく分かっていなかったからだと思います。ひょっとしたら、レコーディング当日に初めてこの曲を聴かされたのじゃないかとも思っています。何だかよく分からんうちに歌わされて、ジョージにとっては災難だったんじゃないでしょうか(苦笑)。ただ、この曲に関しては、あのぶっきらぼうさが良いと思うのです。あとジョンとポールのコーラスの"Oh,Oh"ってフレーズは、ビートルズには珍しいものです。ちゃんと調べてないので断言できませんが(爆)。Ah"とか"Ooh"とか"Lalala"ではなく"Oh,Oh"を選んだことが、結構ポイントかなと思っています。

この曲のレコーディングは4テイクで終了しています。バックの演奏は2テイク目が採用されているのですが、演奏し慣れたカバー曲でもないのに、たった2テイクでOKを出せるのは驚異的です。8ビートの曲に16ビートを絡めたジョンのギターカッティングは、楽曲の雰囲気を決定づけるくらいインパクトがあります。ひょっとしたらモチーフとなる曲があったのかもしれませんが、少々ラフなカッティングを聴いていると、作曲者本人ならではの感性の赴くままの演奏なのかなと思います。開放弦が殆ど使われていないので、リッケンバッカー325特有のサスティンの短さが殊更に強調されて聴こえます。安っぽい音ですが、この曲には非常に合っています。この曲が映画で使用されたのは、ジョンのギターのおかげと言っても良いと思います。一方ジョージのギターはイントロで大き目にミックスされていますが、それ以降は殆ど聴こえてきません。映画の演奏シーンではJ-160Eを弾いており、実際のレコーディングでも使っていた可能性はありますが、何しろ音が聴こえないのでよく分からないのが正直なところです。

ポールのベースは、ジョージのヴォーカル曲では手数が多いという定説通りの演奏です(笑)。8ビート基調の上がり下がりの多い演奏ですが、作りこんだフレーズと言うより少ない時間で何とかまとめたって感じがします。リンゴのドラムは全くオカズの入らない演奏にもかかわらず、物足りなさを全く感じさせません。シンコペーションを決めるところが最大の聴きどころですね。バスタムをオーバーダビングしていますが、意外とこれが戦力になっていますね。

この曲に対する世の中の扱いの低さ(苦笑)に対し、随分と文字数を費やしてしまいました。この曲に対する思い入れを分かってもらえたでしょうか(笑)。

映画ではキーが半音低いのは、モニターが写ってるせいです。