本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

And I Love Her

アルバム5曲目にして、ポールのヴォーカル曲が初登場です。ただし「A Hard Day's Night」や「If I Fell」でポールの見せ場があるので、初登場感はそれほどありませんが。「If I Fell」「I'm Happy Just To Dance With You」に続いて、映画ではリハーサルのシーンで演奏されました。当時、音楽的には絶好調だったジョンに対し、ポールの方はルックス面が絶好調で人生のピークであったと思われます。この曲の演奏シーンで当時も今もどれだけの女性がメロメロになったことか(笑)。

 楽器編成の類似性から、てっきり「Till There Was You」にインスパイアされた曲かと思っていましたが、初期テイクではリッケンバッカー360/12が使われる思いのほかヘヴィーな演奏でした。この初期テイクは2月25日のレコーディング時のもので、翌26日のリメイクでアコースティックセットに置き換えられ、さらに27日に再リメイクしてようやく完成しています。誰が主導したか知りませんが、今我々が知っているアレンジに落ち着いてほんと良かった。

楽曲の前半はキーがC#m、間奏でキーが半音上がってDmに転調します。これまでの楽曲のような転調の際のコード進行に工夫は見られませんが、間奏を境にガラっとキーが変わるのでインパクトはあります。使われてるコードはダイアトニックコードばかりですが、エンディングがキーDmに対してDメジャーで終わるところにひと工夫が見られます。このマイナーキーの楽曲をメジャーコードで終わるって手法は、日本のグループサウンズに強く影響を与えたそうですが、グループサウンズをちゃんと聴いたことないのでよく分かりません(苦笑)。

演奏面で一番目立っているのがジョージが弾くガットギターでしょう。ホセ・ラミレス社製の型番不明のギターです。ジョージの演奏は間奏も含めて非常にシンプルで、「Till There Was You」では達者なところを披露していたので意外な感じがします。まぁデビュー前からのレパートリーで演奏し慣れていた「Till There Was You」と新曲の「And I Love Her」を比較するのは酷かもしれませんが。ただ「And I Love Her」でのジョージのシンプルな演奏は、過剰なところがなく楽曲にマッチしていると思います。不思議なのは、リフやギターソロと被ってアルペジオを休んでる小節があるのですが、せっかくトラック数が増えたんだからオーバーダビングしようという発想がなかったんでしょうか(苦笑)。ジョンはJ-160Eをアンプに通さず演奏しています。2小節1セットにパターン化されたストロークで、2小節目の4拍目の裏が休符になっています。演奏自体は難しいものではありませんが、半拍休んでることで楽曲全体をグッと締めていると言うのは褒め過ぎでしょうか。

ベースはいきなりコード弾きから始まります。アコースティックな曲にミスマッチな感じがしますが、聴き慣れたからでしょうか、こうでなくてはいけないと思ってしまいます(笑)。歌いながら弾くことを想定してなのか、ポール自作曲ではベースの手数が少な目です。その傾向はこの曲にも表れており、Aメロのラスト2小節の手数が多めなのを除けばシンプルなプレーです。シンプル過ぎるのを嫌って、コード弾きをしているのかもしれませんね。リンゴは当初ドラムを叩いていましたが、リメイクでボンゴに持ち替えました。これが大正解でしたね。オーバーダビングのクラベスも効いています。

ポールはこの曲を非常に上手く歌っていると思います。歌の先生に高得点をもらえるような技術的な上手さではなく、「上手いこと歌おう」って邪念のないニュートラルな歌い方が楽曲にマッチしてるんですよね。この後ポールもどんどんヴォーカルが上手くなりますが、この曲に関しては1964年当時のポールが一番上手く歌えたのではないでしょうか。

ところでこの映画で使用されている「And I Love Her」は、レコードで発表されたものと同じではありません。まず、キーがレコードより半音低いです。その理由については「I Should Have Known Better」の記事に書いているので、そちらを見てもらえればと思います。あとポールのヴォーカルの処理が、レコードではダブルトラックが主になっているのに対し、レコードはシングルトラックが主になっています。キーの違いについては技術的な理由があるんですけど、ヴォーカル処理の違いも何か理由があるんですかね。