初期のビートルズは、特にコーラスやハーモニーにおいて、アメリカのガールズポップの影響を多大に受けていました。その割には、そういったテイストのオリジナル曲ってのが意外とありませんでした。「Tell Me Why」は映画『A Hard Day's Night』収録曲にアップテンポの曲が少ないという要請を受け、ジョンが書き上げた曲と言われています。そしてこの曲は、ビートルズの全作品でアメリカのガールズポップの影響が最も色濃く出た作品となりました。レコーディングは2月27日に行われ、8テイクで録音は終了しています。
楽曲はドラムのフィルインからスタートします。取り立てて難しいプレーには聴こえませんが、楽曲全体のノリを決定づける重要なフレーズだと思います。この曲でもジョージはリッケンバッカー360/12を演奏していますが、コードストロークに専念しています。ジョンも同じような演奏で、2人のギターが重なり合って分厚いサウンドになっています。ジョンのギターはリッケンではなく、J-160Eをアンプに繋いでいるように聴こえますが定かな根拠はありません。ポールは「All My Loving」でお馴染みのランニングベースを披露しています。ジョンとジョージのギターは共にコードストロークに専念しているので、ポールのベースは楽曲に変化をもたらす重要なパートです。また、ピアノの単音弾きをBメロ以外の楽曲全編でオーバーダビングしています。シンプルな演奏ながら楽曲に重厚感が加わり、これがなかったら仕上がりは違ったと思います。
テーマのハーモニーは、誰がどう歌ってるのかちょっと分かり難いです。上のパートをジョン、真ん中をポール、一番下をジョージが歌っているように思います。ポールとジョージのパートは"Tell me"までが同じ音、"why"から上下に分かれます。そして1コーラス目の最後、ジョンとポールのパートの高低が入れ替わります。ジョンの1人3重唄って説も見たことありますが、テーマの一番上のパートをポールではなくジョンが歌っているから、そういう説も生まれたんだろうと思います。Aメロになるとジョンが真ん中、その上をポール、下をジョージといつもの配置に戻ります。1回だけ登場するBメロはジョンが主旋律、ファルセットの部分はポールとジョージてな感じで、掛け合いになっているように思います。映画のシーンを見る限り、ファルセットにジョージは参加してるようには見えないんですけどね（笑）。
映画ではテレビショーの一曲目に演奏されるのですが、そんな重要な曲の割にリハーサルシーンがないのはどういうことか（笑）。それはともかく、僕の知る限り実際のライブでは演奏されたことがなく、レコーディング限りの演奏ってことになります。そういう曲はこの曲以外にもあるんですが、こんなに良い曲なのに勿体ないなぁって思います。
映画ではキーが半音低いのは「I Should Have Known Better」の記事で説明した通りです。
