本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

You Can't Do That

この曲についてのジョンのコメントで、シングルA面を目論んで作ったものの「Can't Buy Me Love」が良すぎてB面に追いやられた的なものを読んだことあるのですが、この曲の方が録音は後なのでジョンのコメントには違和感を感じます。想像力(と言うか妄想力)をフル回転させると、パリのスタジオでドイツ語版の「I Want To Hold Your Hand」「She Loves You」をレコーディングした際、あまった時間で何をレコーディングするか議論になった時、ジョンとポールがそれぞれの新曲を披露し、その時の勝者が「Can't Buy Me Love」だった、なんて経緯があったのかもしれません。当初は映画『A Hard Day's Night』で使用される予定で、演奏シーンも撮影されていたそうなんですが、結局カットされてしまいました。いわゆる「持ってない」曲なのかもしれません(苦笑)。とは言え、当時のライブのセットリスト入りは勝ち取っているので、作曲者のジョンのみならずメンバーの評価も高い曲なんだろうと思います。

 レコーディングは2月25日に行われ、9テイク録音して同日中に完了しています。この日は映画『A Hard Day's Night』使用曲のレコーディング開始日で、同じ日に「And I Love Her」と「I Sholud Have Known Better」もレコーディングされていますが、完成したのはこの曲だけでした。翌日には「Can't Buy Me Love」共々ミキシングされてレコード会社に渡されており、驚く程のスピード感でリリースの準備が進められたのは、シングル曲のリリース日(アメリカ:3月16日、イギリス:3月20日)が迫っていたからだと思います。

「Can't Buy Me Love」のレコーディングでは無理矢理使った感のあるリッケンバッカー360/12を、この曲では全面的にフィーチャーしています。ほぼ3~6弦のみで構成されているギターリフは、オクターブ違いの弦がセットになっている12弦ギターの特性を意識したことは明らかで、
12弦ギターをレコーディングに使用して2曲目にもかかわらず、長年使いこなしているかのような完成度の高さです。フレーズ自体も、キーに対する3番目の音(この曲のキーはGなので、3番目の音はB)をマイナーとメジャー交互に弾く風変わりなもので、非常に印象的です。もう一本のギターは、ジョンがリッケンバッカー325を演奏しています。2拍4拍のコードカッティングが基本パターンですが、シンコペーションを交えながら感性の赴くままに演奏しているので、コピーするのは至難の業です。歌中のコードカッティングの勢いのまま間奏に雪崩れ込むのですが、リズムギターの発展形とでも言うべきギターソロは、フレーズはコピーできたとしてもジョン特有のフィーリングを再現するのはこちらも困難です。このブログで何度も酷評している325の音色ですが(苦笑)、「このギターはこう使うのさ」ってジョンの魂の叫びが聞こえるような、325ならではの名演と言えると思います。

ジョンとジョージのギターに耳が奪われがちですが、ポールとリンゴのリズム隊も聞き逃すことができません。ポールのベースはルート音中心で音の上がり下がりは控えめですが、スタッカード気味に小気味良く演奏するサマはタンゴのリズムを連想させます。前述の通り、この曲はライブで演奏されているのですが、ベースを弾きながらコーラスの掛け持ちはハードだったのではないでしょうか。リンゴは例によって一曲通してほぼ同じパターンの繰り返しですが、ブレイク後のフィルインがシンプルながら絶妙なタイム感で楽曲のグレードを引き上げています。リンゴはドラムの他にボンゴをオーバーダビングしており、カウベル(ポールが担当)とともにファンキー要素での貢献度は高いと思います。

そしてヴォーカルも濃厚な楽器演奏に負けていません。熱いけど暑苦しくないジョンのヴォーカルとシャウトが堪能できる、数少ないオリジナル曲です。ジョンのヴォーカルは熱いんですけど、目一杯ではなく腹八分目の余裕を感じさせるところが暑苦しくない要因ではないかと思います。ライブでは325をドライブさせまくりながら歌っており、歌と楽器演奏の両立には驚くしかありません。コーラスは「Can't Buy Me Love」でボツになったものを何となく連想させます。ジョン同様、ポールとジョージ共に歌と楽器演奏の両立は大変だと思うのですが、それを微塵も感じさせません。特にこの頃のポールは、自身のヴォーカル曲よりもコーラスに回った時の方がイキイキとしてますよね(笑)。

このクオリティでシングルB面、アルバムB面のラスト2曲目、しかも映画に使われずと不当に扱いが悪い曲だと思いますが(苦笑)、当時のビートルズの美味しいところが凝縮された一曲で、個人的には大好きな曲です。