本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

I'll Be Back

過去のアルバム2枚はハードな曲をラストに収録していましたが、今作では一転してアコースティックな曲をラストに収録しました。ジョンがこの曲について、デル・シャノンの曲のコード進行を参考にしたと発言しており、具体的な曲目は挙げていませんが、「Runaway」を指しているとされています。「Runaway」のコード進行でジョンが参考にしたのは、マイナー→メジャーの転調ではないかと思われます。「I'll Be Back」ではイントロ→Aメロの流れでさっそく転調が使われているのですが、「Runaway」とは逆にメジャー→マイナーへの転調です。ジョンによると、ポールもデル・シャノンの曲のコード進行を参考に作曲したとの事で、恐らくそれは「Things We Said Today」を指しているのではないかと思います。

 歌詞の内容から恋人にあてた曲のように見えますが、長らく行方不明であったジョンの実父、アルフレッドに向けての曲と言われています。アルフレッドとは長らく音信不通だったのですが、アルフレッドが突然名乗り出て1964年4月1日に2人は再会しています。この再会を快く思っていなかったジョンは、2人きりで会わずジョージとリンゴが同席しています。ポールはどうしたの?って素朴な疑問はありますが(笑)、エプスタインを同席させなかったのは、ジョンなりの父親への配慮ではなかろうかと。エプスタイン同席だったら、ジョンのイメージが傷つくのを恐れて、今後2度と顔を合わせないよう要求したのではないでしょうか。

『Anthology』でこの曲の初期テイクが聴けますが、当初は3拍子だったこととか12弦ギターを使っていたこととか、完成形との違いようはなかなか衝撃的でした。特にギターの選択に関しては、アコースティック以外の選択肢はあり得ないと思うのですが、完成形を知っているから言えることなのかもしれません。ジョージは12弦ギターをガットギターに持ち替え、単音とコード弾きを織り交ぜてバッキングに徹しています。そう言えば、6月1日と2日に録音されたアルバムB面用の5曲について、12弦ギターが採用されたのは「Anytime At All」だけです。楽曲との相性を考えて12弦ギターの使用を見送っただけかもしれませんが、アルバムA面用の楽曲録音時には何が何でも12弦ギターを使うって感じだったので、ジョージの心境に何か変化があったのかもしれません。ポールのベースは「And I Love Her」と同じくコード弾きを披露していますが、アコースティック・サウンドにはベースのコード弾きに限る、って謎のポリシーでもあったのでしょうか。

Aメロは下からジョン、ポール、ジョージの順でハモっており、この曲の最大の聴かせどころと言って良いでしょう。この曲に限らず、ビートルズは3声のハモリを多用しますが、一番上のパートはポールって感じで役割を固定するのではなく、楽曲によって柔軟に上下のパートを変えています。この辺の経緯についての情報は一切見たことありませんが、一見適当とも思える自由奔放さが彼らの作品の可能性を広げたと思うのですが、それは褒め過ぎでしょうか(笑)。ジョンのソロパートは3回登場するのですが、2回目はメロディとコード進行ともに1回目3回目とは異なります。1回目と3回目はF#mから始まり、2回目はBmから始まるのですが、3回ともコードにない音Eからメロディが始まっています。メロディとコードのミスマッチはビートルズの楽曲では度々登場しますが、この曲に限ればテンション的な効果に乏しく、なんだかしっくりこない感じしかありません。弾き語りしてみれば分かると思うんですが、ジョンのソロパートって非常に歌いにくいんですよね。それは自分のスキルのなさに起因するかもしれませんが(爆)。あと、ジョンのソロパートはいずれもAメロに戻る着前に変拍子を挟んでおり、新しい試みをしれっとぶっこんだりしています。

ジョンの狙いは何となくわかるけど、消化不良気味で残念な曲だなぁっていうのが個人的な感想です。とは言え、充分な準備期間がなかったにもかかわらず、これほどまでに質の高い曲を揃えてきたことには驚異的としか言いようがありません。アルバム『A Hard Day's Night』はビートルズの全作品の中でジョンが最も高いモチベーションで制作し、ビートルズのリーダーとしてのジョンが最も味わえる作品ではないでしょうか。

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