「I Need You」と同じく、映画『Help!』のサウンドトラック盤のためのレコーディングの初日に録音されており、レコーディング順では「I Need You」の前です。1テイクでレコーディングは終了していますが、一発録りでレコーディングが終了した訳ではありません。この年からレコーディング方法を変えて、まずリズムトラックのみ完成させることにしました。その後、完成したリズムトラックにオーバーダビングをするのですが、以前はオーバーダビングもテイク数にカウントしていたのを、この年のレコーディングからカウントしなくなったため、以前より少ないテイク数でレコーディングが完了するようになりました。ただし少なくなったのはテイク数だけで、レコーディング時間が短くなった訳ではありません。
前述の通りレコーディングは1テイクで終了し、当初はジョージがトレモロアームを駆使したリードギターを演奏していました。しかしながら、その日のうちにジョージのリードギターはボツとなって、翌日ポールがリードギターを演奏してレコーディングは完了します。ポールはエピフォン・カジノでチョーキングを多用して、グニャグニャしたフレーズのオブリガードを入れています。ボツになったジョージのギターがトレモロアームを駆使していたのは、ポールからオブリガードのフレーズを指定され、それを実現するためだったんでしょうね。「Ticket To Ride」「Another Girl」と続けざまにリードギターをポールに取って代わられ、ジョージとしてはさぞかし面白くなかったことでしょう。そんなジョージはJ-160Eを演奏しているようです。ジョンが演奏しそうなパートですが、ジョンのストロークとは違う感じがします。一方、ジョンはエレキでカッティングをしています。クセの強いリッケンのサウンドとは異なり、入手したばかりのストラトキャスターをダブルトラックで演奏しているように聞こえます。リンゴはシンプルなプレーに徹しており、最後のブレイクのみオカズが入っています。
ポールのヴォーカルは「The Night Before」同様に、ヴォーカルスタイルの変化を感じます。ヴォーカルスタイルの変化と言うより作風の変化なのかもしれませんが、青臭さとブルース臭が抑制されて従来のヴォーカルよりクールな印象を受けます。コーラス・パートはジョンが上でジョージが下ですが、サビのコーラスパートの最後で2人の高低が入れ替わっています。このアルバムのサウンドの特徴の1つ、声を張り上げないコーラスがポールのヴォーカルと相まって、楽曲のクールな雰囲気を助長しているように思います。
この曲についてのポールのコメントでは、アルバムの穴埋めにしかならなかった的なことを語っており、意外と本人の評価は低いんだなと驚きでした。本人の評価が低かったとしても、この曲は後年ポールの才能が爆発するための偉大なプロセスだと思っています。何度か書いてますが、「What You're Doing」や「The Night Before」そしてこの曲という過程を経て、薄っすら「Drive My Car」のクラクションが聞こえてきました。
