本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

I'll Cry Instead

映画『A Hard Day's Night』用にジョンが書き上げた曲ってことなんですが、映画のオープニングシーンに使うためって説と、「Can't Buy Me Love」のシーンに使うためって説を見たことがあります。どっちが真相なのかは分かりませんが、いずれのシーンも超強力な曲が相手なので、リチャード・レスターが却下するのももっともなことだと思います。当時ジョンは何かに腹を立ててこの曲を作ったそうですが、ジョンが腹を立てたのは映画『A Hard Day's Night』のことではないかと思っています。そんな曲を映画の挿入歌に使うってアイデアは仕返しの手段としては秀逸ですが、ジョンの思惑通りになったところで誰の得にもならなかったでしょうね。大体この曲を録音した1964年6月1日は映画の撮影が終了しており、上述の逸話の信ぴょう性を疑っています(苦笑)。

 前述の通り、レコーディングは1964年6月1日に行われたのですが、映画に挿入しやすいようにとの配慮から、1曲をセクションAとBに分けています。ジョンが映画にねじ込もうとした逸話の信ぴょう性を疑っていましたが、映画に使おうとしてレコーディングしたのは事実のようです(汗)。上にも書いた通り、この曲のレコーディング時点で映画の撮影は終了しており、この曲にかけるジョンの熱意は置いておいて、他のメンバー、レコーディングや映画撮影のスタッフ的に迷惑な話だったのではないでしょうか(苦笑)。

ジョンもポールも感情剥き出しに歌うことはあまりないのですが、この曲ではジョンがドスの効いた声を時折り聴かせてくれて、ビートルズの全曲中でも非常に珍しいのではないでしょうか。ジョンのヴォーカルに相反して楽曲自体は非常に洗練されていて、ジョンが腹を立てていたって逸話も、ジョンが話を盛っただけじゃないのかって思えてきます。楽曲ができた経緯はともかく、ジョンはこの曲を非常に気に入って、それで映画にねじ込もうとしたのではないでしょうか。

ジョージは12弦ギターではなく、カントリージェントルマンでカントリー風のギターを弾いています。あくまで「カントリー風」であって、次作『Beatles For Sale』で披露したスタイルとは似て異なる感じです。コード弾きが中心ですが、歌の合間に散りばめられるアルペジオが、何となくカントリーっぽさを醸し出しています。楽曲のスピードが速いので演奏の難易度は高いです。ジョンの曲ではシンプルなプレイに徹することに定評のあるポールのベースですが、簡単に弾けそうなフレーズを難しく弾いています。小節の頭の着前に、16分音符くらいのタイミングで引っかけて入るのですが、このアルバム以降にも随所で披露されるポールお得意のプレーです。引っかけるタイミングが絶妙で、楽曲のノリを生み出すキモとなっています。リンゴはドラムとタンバリンを担当していますが、タンバリンの音が大きすぎて、ドラムの音があんまり聴こえてきません。

楽曲が短くあっさり終わるので、個人的には印象の薄い曲だったのですが、このレビューを書いたことがキッカケで随分と印象が変わりました。良い方に印象が変わったのですが、随分長い間ビートルズを聴いてきたのに、未だにこういうことがあるんですね。