ジョンが10代の頃、The Beatlesと名乗る前には楽曲の原型が出来ていたようです。1963年3月の「From Me To You」と「Thank You Girl」のレコーディングが予定より早く終わり、余った時間にレコーディングする曲として候補に挙がったものの、結局「One After 909」がレコーディングされました(結局それは当時未発表)。ネットで見つけた情報によると、1965年10月13日にポールとリンゴがジョンの自宅を訪問し、この曲を引っ張り出して3人がかりでミドルエイトなど改良して、『Rubber Soul』用のリンゴ・ヴォーカル曲としてレコーディングに至ったということです。日付が正確かはともかく、お蔵入りになった曲を引っ張り出したのは事実でしょう。
レコーディングは1965年11月4日に行われました。レコーディングのタイムリミットが後1週間に迫り、この時点でアルバム+シングル収録予定の16曲に7曲が足りていない、ケツに火がついた状態でレコーディングが行われました。ベーシック・トラックはわずか1テイクで終了しています。リンゴのヴォーカルは、いい塩梅の力の抜け具合だと思います。前作の「Act Naturally」と同様に、曲調がリンゴのスタイルに合っているんでしょうね。淡々としたヴォーカルが物悲しさを醸し出して、この曲の歌詞の世界観を絶妙に表現しています。また、この曲ではリンゴのヴォーカルにジョンとポールがハモる、とても贅沢なシチュエーションであります。ジョンとポールのハーモニーが素晴らしすぎて、メインのヴォーカルが食われるリスクもあるのですが、リンゴは結構頑張って歌ったのではないでしょうか。
リンゴのドラムは何となく聴いていると凄さが分かりにくいですが、高速のシャッフルに加えてキックが忙しく、世界中のリンゴ泣かせのハードな演奏だと思います。ジョンとジョージのギター、ポールのベースは楽曲全編アドリブと言っていいくらい繰り返しのない演奏です。ジョンは低音弦のゴリッとした音と高音弦の鋭い音を混ぜ合わせた掴みどころのない演奏です。フィーリング一発って感じのフレーズなので、完コピは至難の業だと思います。ジョージはお得意のカントリータッチの演奏ですが、繰り返し演奏されるフレーズがなく、ジョン同様に掴みどころがありません。恐らく、ジョンとジョージともにストラトキャスターを演奏しているのではないかと思います。ポールはリッケンバッカーをブリッとした音で演奏しています。フレーズがある程度パターン化されているので、自由奔放に弾きまくるジョンとジョージに対し、リンゴと共に楽曲を引き締める役割を担っています。全編アドリブのような楽器演奏は、アレンジに時間をかける余裕がなかったからかもしれませんが、たったの1テイクでベーシック・トラックを終わらせたのはエグい。
昔は「Act Naturally」との違いも分からないくらい、アルバムの箸休め的な曲としか思っていませんでした。自由奔放に聞えるけど実はハイレベルな楽器演奏の素晴らしさに気付いてからは、それまでの「聞く」から「聴く」に変わりました。この曲を録音した後、結局ボツになったインスト曲「12Bar Original」を録音しているのですが、この「What Goes On」の方が彼らの楽器演奏の素晴らしさを楽しめると思います。