本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

Michelle

ビートルズとしてデビューする前から、この曲の原型は出来ていたらしく、ポールにとっては冗談で歌う曲という位置づけでした。アルバム『Rubber Soul』の製作にあたり、ジョンの勧めでレコーディングすることになったそうです。何度も書いてる通り、アルバム『Rubber Soul』は曲を作りながらレコーディングする自転車操業だったため、使えるものはなりふり構わずってくらい追い込まれていたのかもしれません。

この曲のキーはFです。キーFを構成するコードの多くは、一本の指で複数弦を押さえる技術(セーハ)を要するため、ギタリストはあまり使いたがらないハズです。ポールによると、リバプール時代に兄貴分として慕っていたジム・グレッティというジャズ・ギタリストからFコードを教わり、覚えたてのFコードを使って「Michelle」を作ったそうです。と、ポールのFコードに対するエピソードを紹介して何なんですが、レコーディングではカポタストをして、キーCのコードで演奏していると思われます。「Fちゃうんか~い」と突っ込みたくなりますが、どうしようもありません。ビートルズ解散後のライブで「Michelle」を演奏する際、ポールは5フレットにカポタストをしており、レコーディング時も同じようにしてたんでしょう。『Rubber Soul』レコーディング時の写真の中に、5フレットにカポタストをしたアコースティック・ギターを抱えたジョンが写っているものがあり、5フレのカポは間違いないでしょう。

イントロのほか度々登場するクリシェのフレーズは、Fmをキーとするコードで構成されています。このフレーズが終わるとFに転調するのですが、メインのメロデイがあまりメジャー感がないので、メジャーとマイナーキーの転調が繰り返されても不自然さは感じません。音源を聴く限りアコースティックなギターは3本使っているように思います。ステレオ・ミックスの右から楽曲全編で聞える1本、ステレオ・ミックスの左からクリシェの時だけ聞える1本、ステレオ・ミックスの真ん中辺りでうっすら聞える1本です。右から聞えるギターを、恐らくポールがベーシックトラックで演奏しているのでないかと思います。間奏のエレキ・ギターは、僕が知る限りジョージが演奏していることになっていますが、これもポールが演奏しているのではと思っています。カジノのトーンを絞った感じの音ですが、当時ジョージはカジノを所有していなかったはずです。フレーズといい粘っこいフィンガリングといい、ポールらしさ満点のギターソロです。ジョージが弾いていたとしても、恐らくフレーズはポールが考えたものではないかと思います。その場合、ギターはギブソンES-345ではないでしょうか。

この曲のレコーディング当時、ポールはビーチ・ボーイズのブライアン・ウイルソンのベース・ラインにハマっていたそうで、「Michelle」のベースでルート音以外を多用しているのもその影響下にあると言っていいでしょう。ポール曰く「ベースの楽しさに目覚めた曲」ということで、ステージ活動の終焉と反比例するように、自由奔放なベース・ラインの曲が増えていきます。この曲の1つ前の「The Word」とか、ベースで従来にはないチャレンジができるようになったのも、ベーシックトラックが完成した後からベースをオーバーダビングする、レコーディング・プロセスの変化があったからこそだと思います。リンゴは余計なことは一切せず、リムショットで2拍4拍をひたすら叩いています。「I love you,I love you~」の部分だけ、バスドラがベースとシンクロしていますが、後から録音したポールがリンゴに合わせたんだろうと思います。

ポールは甘ったるさを排除した、クールでビターなヴォーカルを披露しています。この頃になると、オリジナル曲のやっつけ方も習得したようで、ヴォーカリストとして1つ上のステージに上がったように思います。ジョン、ポール、ジョージの3人によるコーラスは、かつてないほど分厚いサウンドです。これまでのように3声のコーラスをダブルトラックにしたのではなく、3人がそれぞれ2つのパートを担当して、計6声のコーラスになっているようです。6つのパートをキッチリと聞き分ける耳を持ってないので、半分憶測で語っていますが(爆)。6声のコーラスはこれまにない試みで、時間がないのに色々とアイデアが出てくるのには感心するしかありません。

ビートルズを聴き始めた頃は、楽曲のレベルが高すぎて良さが全く分かりませんでした。年齢とともに良さが分かるようになって、嬉しい限りです。例えるなら、昔は渋いとしか思わなかったワインの旨味が分かるようになった、ってとこですかね。未だにワインを美味いと思ったことありませんが(爆)。コンポーザー、ベーシスト、ヴォーカリストとしてポールが一皮むけた、記念碑的な名曲ではないでしょうか。