本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

Girl

『Rubber Soul』のレコーディング最終日を迎え、あと3曲足りないケツに火がついた状況で、ジョンが持ち込んだのがこの「Girl」でした。この曲が生まれたのは、ジョンの自宅でジョンとポールがアルバム用の曲作りをしていた時でした。ジョン主導でできた曲ですが、歌詞のいくつかはポールのアイデアが活かされているようです。

レコーディングされたのは1965年11月11日、夕方6時から翌朝7時までの13時間におよぶセッションで、「You Won't See Me」の次に取り掛かりました。ベーシック・トラックは2テイクで完成し、その後に色々とオーバーダビングしています。ベーシック・トラックはジョン、ポール、リンゴの3人で演奏しました。この曲のキーはE♭で、ジョンは8フレット目にカポタストをして演奏をしているって説を見かけますが、キーがE♭というのが腑に落ちません。ギターで作曲したであろうジョンが、バレーコードが多く出てくるキーを選択するとは思えません。この曲のキーはE♭より半音低いDで、ジョンは7フレット目にカポタストをして演奏し、テープ操作で半音上げたのではないかと思うのです。ギタリストが普通選ばないE♭というキーより、キーDで演奏したものをテープ操作で半音上げる方が自然だし、何よりそっちの方がビートルズっぽいと思うからです。

ジョージはブズーキと呼ばれるギリシャの楽器を演奏しているそうです。レコーディング最終日で後がない状況にもかかわらず、演奏し慣れていない楽器を使う神経は全く理解できません(苦笑)。まぁこのアルバムでは、演奏し慣れていないシタールも使っているので、彼らにとっては通常運行なのかもしれません(笑)。ブズーキについては詳しく知りませんが、12弦ギターと同じ構造をした8本の弦の楽器です。シタールと比較すると、ギタリストであれば違和感なく弾けそうに見えます。YouTubeで演奏シーンを見る限り、シタールほど個性的な音ではありません。単音のフレーズを弾いている2本がブズーキと思われますが、ギターと較べると弦のテンションが若干緩く聞えます。元々はファズを効かせたギターを演奏していたそうですが、完成品のイメージからは想像つかないですね。

ベースは動きの少ないシンプルな演奏です。音をしっかり伸ばすのがポイントで、ポールはこういう基本的なことを疎かにしないのが、彼の良いところだと思います。シンプルとは言え、メロディーに合わせてフレーズに変化をつけており、繰り返しのない演奏です。リンゴはブラシを使った演奏で、ベーシックトラックの他にもオーバーダビングしてダブルトラックになっています。ブラシならではの柔らかいサウンドのおかげで、楽曲がしっとりした感じに仕上がっていますが、サビと間奏ではシンバルを激しく鳴らしてメリハリをつけています。

ジョンのヴォーカルは、ビートルズ解散後も含めてこの曲だけと言えそうな、独特な歌いまわしをしています。クセ強めなので、何となく真似できてしまいそうですが、難易度の高いテクニカルなヴォーカルだと思います。夕暮れに向かって叫びたくなるような、たそがれヴォーカルがジョンの持ち味ですが、それとはテイストが異なり少しウェットな印象を受けます。この曲を聴くと雨の情景が思い浮かぶのは、きっとジョンのヴォーカルのせいなんでしょうね。

"tit"という単語を繰り返すコーラスパートについては、ジョージ・マーティンに何と歌っているのか問われたそうですが、"di-di-di"と歌ってるけど人によっては"tit"と聞えるかもねと誤魔化したそうです。誤魔化せたとは思えませんが(笑)こっそり不謹慎なコーラスをいれてみたり、使い慣れてないブズーキを演奏してみたり、そのマイペースぶりもこれまでのミュージシャン生活で培われたものなんでしょうか。そんなことより、もう後がないギリギリの状況で一世一代のパフォーマンスを披露できるジョンは、何てカッチョイイんだろうと惚れ惚れします。