本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

Rain

シングル「Paperback Writer」のB面曲としてリリースされましたが、ジョンの曲がB面に追いやられたのは、「Can't Buy Me Love/You Can't Do That」以来シングル6作ぶりとなりました。A面こそ「Paperback Writer」に譲りましたが、後に発表されるアルバム『Revolver』の予告編的な役割を果たす超強力な楽曲です。超強力な楽曲と言いつつ、当時のファンに熱狂的に受け入れられたか疑わしいですが、B面曲にも関わらずビルボード誌では23位を記録するなど、営業的には成功だったと言えそうです。

『Revolver Special Edition』に収録された、「Rain」第5テイクのActual Speedについて腑に落ちないことがあります。"Actual Speed"をビートルズがレコーディングで演奏した時の実際の速度だと解釈しているのですが、だとしたらあまりにも演奏速度が速すぎるのでないかと思うのです。ポールのベースやリンゴのドラムが、このスピードで演奏できるとは思えないのです。『Revolver Special Edition』のライナーノーツによると、テープ速度を遅くした時にGのキーになるようB♭のキーで演奏したらしいのですが、キーB♭ってのがまた怪しい。ギターバンドが演奏しにくいB♭をキーにするとは思えないです。キーB♭で演奏したというライナーノーツの情報は誤りで、実際にはキーAで演奏したのではないでしょうか。ライナーノーツの(誤った)情報に合わすべく、キーAで演奏したものを半音分速度を上げたものが『Revolver Special Edition』収録のActual Speedだと大胆にも言い切ってしまいます。どうせ関係者が日本語のブログなんて読まないし(爆)。

もう一つ解せないのが、ジョージがギターを演奏していないという情報です。『Revolver Special Edition』のレコーディング記録によると、ジョージの担当はコーラスのみです。ポールの曲でもないのにジョージがギターを演奏できない理由がよく分かりませんが、無理矢理ひねり出してみました。何となくインドっぽさを感じるリード・ギターのフレーズはポールのアイデアで、発案したポールが当然のようにリード・ギターを演奏することになった。もう一つ考えられるのが、キーAの演奏速度にジョージの演奏が上手くハマらなかったため、ベーシックトラックでは演奏する楽器がなかったポールが、代わりにギターを演奏することになった。あくまで仮説ですが、我ながらジョージに対して失礼すぎるな(汗)。レコーディング記録に基づく情報なので信ぴょう性は高いのでしょうが、事実だとしたらジョージ的には思い入れの薄いレコーディングだったのではないでしょうか。

ポールのベースは、ベーシックトラックの後に録音されたものです。『Rubber Soul』のレコーディングで試みたベースをオーバーダビングする手法は、『Revolver』のレコーディング期間中にビートルズの標準的なレコーディング手順として確立されました。そのおかげでジョージがギターを弾かせてもらえない(ベーシックトラックでポールがギターを弾くので)というマイナス面もあるのですが、やり直しできるオーバーダビングによりベースのフレーズの自由度が増し、音楽的にはプラス面の方がはるかに大きいと思います。『Revolver』のレコーディング期間中に、ベースの録音環境が改善されたことも相まって、この曲ではまるでリード楽器のような存在感を放っています。ある程度パターン化されているものの、ベーシックトラックの間を縫うように感性の赴くまま弾きまくっています。

それにも増して凄いのがリンゴのドラム。リンゴのドラム史上、最も手数の多いのがこの「Rain」ではないでしょうか、統計を取った訳ではありませんが(笑)。それはともかく、リンゴ自身がベストプレーに挙げているのは有名なエピソードです。『Revolver』のレコーディングからチーフ・エンジニアがジェフ・エメリックに代わったことで、ベースと同様にドラムの音も劇的に向上しました。アタック感が増して、ドラムだけでなくバンドのサウンド全体が硬く引き締まって聞こえるようになりました。実際の演奏は、我々がCDやレコードで耳にしているものより1音分速いわけで、この日のリンゴの演奏は神懸かっていたと言えるでしょう。しつこいようですが、いくら神懸っていたとは言え、『Revolver Special Edition』収録のActual Speedはあり得ないと思っています。エンディング近く、ポールのベースと合わせているフレーズが聴けますが、ポールのベースは後から録音したものなので、リンゴのドラムがポールの想像力を掻き立てたと言えるでしょう。テープ操作で実際の演奏より速度を落としているのに、タイトなリズムを叩きだしているのは驚異的です。

楽器演奏の録音時とは逆に、ヴォーカル録音時はテープ速度を落としています。その結果、楽器演奏は気怠い感じになっているのに対し、ヴォーカルは可愛らしい感じに仕上がっています(若干ですけどね)。ジョンのヴォーカル・スタイルが大きく変わるのが『Revolver』のレコーディングからで、この曲でも鼻から空気が抜けていくような脱力系のヴォーカルです。"When the sun shines down"のコーラスは3声なので、ジョン・ポール・ジョージの3人が参加していると思われます。"Ra~~~in"のポールのハモリは、演歌歌手のコブシを連想させます。エンディング近くで聞こえる、何を言っているか分からないジョンのヴォーカルは、楽曲冒頭の"If the rain comes,they run and hide their heads"の部分のテープを逆回転で再生したものです。

楽曲全編から漂うただならぬ雰囲気は、楽器演奏を録音した時よりテープの回転速度を落として、全ての楽器のピッチを下げた影響でしょう。仕掛けを知ってしまえば何てことないように思ってしまいますが、こういうちょっとしたアイデアを思いつくことが凄いのです。テープの回転速度を上げたり下げたり逆に回転させたり、今の機材ほど簡単ではなかったと思うし、テープの品質が悪くなったりしないんですかね?コーディング・スタッフの苦労は大変なものだったと思いますが、ビートルズのメンバーはロクに感謝もしなかったというエピソードも目にしますので、メンバーに代わって御礼申し上げたいと思います。こんな濃厚な曲がシングルB面ってのは、何とも贅沢な話だなぁと思う次第です。