本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

In My Life

当初のアイデアは、メンローヴ・アヴェニューの家(ジョンが幼少期を過ごした、ジョージ叔父さんとミミ叔母さんの家)からバス通学していた頃を思い出して、バスから眺めた光景を歌詞にする予定だったそうです。Penny Laneなどの地名を歌詞に並べていましたが、この歌詞はボツにしています。歌詞を先に書き上げ後からメロディをつけたそうで、ジョンによるとメロディの一部をポールが手助けしたとのことです。一方ポールはメロデイ全部を作ったと主張しており、2人の記憶が全く食い違っています。メロデイの黄昏れた感じから、ポールが手助けしたにせよ、ジョン主導で作ったのではと個人的には思っています。

レコーディングは1965年10月18日「If I Needed Someone」に続いて行われました。リハーサルの後、ベーシックトラックを3テイク録音し、3テイク目がベストとなります。この時点では、間奏をどうするか決まっていませんでした。10月22日の午前中に間奏のレコーディングが行われましたが、ビートルズのメンバーは立ち会ってなかったようです。この時点で決まっていたのが、ジョージ・マーティンが何か鍵盤楽器を演奏するということだけ。ジョージ・マーティンはまずハモンド・オルガンを演奏し、次いでピアノを演奏します。ジョージ・マーティンバロック風のフレーズを思いつきますが、彼が演奏するには難易度が高いものでした。そこで、テープ速度を半分に落とすことを思いつき、演奏面の問題を解決しました。テープ速度を元に戻すと、ピアノの音のピッチが上がりハープシコードっぽい音色になって、フレーズとサウンドともにジョージ・マーティンが意図した通りのバロック風のソロに仕上がりました。ジョンもソロの出来に満足し、間奏に採用されます。

楽器演奏はギター、ベース、ドラムの3ピース構成が基本で、前述のピアノやリード・ギターが時折り入るのみです。ギターはどちらもフェンダーストラトキャスターと思われます。そのギター2本で楽曲はスタートします。多分ジョージが演奏しているリード・ギターは、フレーズが秀逸で楽曲全体の印象を決定づける重要なパートです。ジョンは右手の腹で弦をミュートしながらコードを鳴らしています。絶妙にミュートされたまろやかなギターサウンドは、歌詞に込められたジョンの想いを体現していると言ったら褒め過ぎでしょうか。フィーリング一発の演奏かと思いきや、しっかりとパターン化されており、あらかじめフレーズを作りこんでレコーディングに臨んでいるようです。リンゴのドラムは「Anna(Go To Him)」や「All I've Go To Do」と同系統のスタイルで、リム・ショット中心のタイトな演奏です。ジョンの曲では比較的おとなしめなポールのベースですが、意外と動きの多いフレーズを演奏しています。例によって同じフレーズを繰り返しませんが、メロディアスと言える程でもなく、基本的には縁の下の力持ちに徹しています。バッキングの大半は3つの楽器しか鳴ってないのに物足りなさはなく、アンサンブルの素晴らしさを感じずにはいられません。

メインのヴォーカルはジョンですが、ジョンのソロパートは意外と少なく、ハモリやコーラスでポールの出番が多いです。このことからも、曲作りにポールが少なからず貢献をしていることが窺われます。ジョンは思い入れたっぷりに歌うわけではなく、軽く鼻に抜けるような脱力系の声で淡々と歌っています。ヴォーカルとコーラスともにダブルトラックであるのに加え、息ピッタリの3人のハーモニーはまるで音のカタマリのようで、楽器構成がシンプルなのはこのハーモニーを聴かせるためだったのではと思えてきます。間奏のピアノ・ソロが秀逸すぎて、評価がそちらに偏ってますが、楽曲のトータル・アレンジの素晴らしさが光ります。

以前はピアノの間奏のない「In My Life」は「In My Life」にあらずと思っていましたが、エド・シーランの素晴らしすぎるギターの弾き語りを聴いて、その考えは改めました(笑)。元歌の良さが、あのピアノの間奏を引き出したんですよね。世界中の数多くのビートルズ・ファンが、この曲を自分の人生のBGMとして鳴らしていることと思いますが、たわいない人生の思い出の1ページをキラリと光らせてくれる、フトコロの深い名曲だと思います。

素晴らしすぎるエド・シーランのカバー