本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

I'm Looking Through You

『Rubber Soul』収録曲で一番レコーディングが難航した曲かもしれません。レコーディングを開始したのが1965年10月24日。この日のレコーディングはこの曲だけに費やし、リハーサルの後ベーシックトラックのレコーディングが1テイクで終了。それにオーバーダビングして一旦完成しますが結局ボツになります。この時のバージョンは後に「Anthology」に収録されて日の目を見ます。キーが半音低くてテンポが遅い、クラシック・ギターを使用している、など正式リリース・バージョンとの違いはありますが、最も大きな違いはミドルエイトがないことでしょう。要は楽曲がまだ未完成だったのです。その後、1965年11月6日のリメイクで正式リリース版に近づきますが、テンポが速くなり過ぎたということで1965年11月10日に再リメイク。『Rubber Soul』のレコーディング最終日の1965年11月11日に、ヴォーカルをオーバーダビングしてようやく完成します。レコーディングが難航したというより、楽曲を仕上げるのに時間がかかったって感じですかね。

正式リリース版のキーはA♭ですが、『Anthology』に収録されたアウトテイクはそれより半音低いGがキーであることから、正式リリース版もGのキーで演奏してテープの回転操作で半音上げたと思われます。「Girl」のレビューでも同じことを書きましたが、ギターバンドは変化記号のつくキーは選ばんと思うのです。アコースティック・ギターストロークから楽曲は始まります。以前であれば、ジョンの演奏であることに何の疑問も持ちませんでしたが、前作『Help!』から4トラックレコーダーの特性を活用し始めたので、誰が何を演奏しているのか正直よく分かりません。ポール作の曲であり、楽曲全体を牽引するようなパートであることから、ポールが演奏しているのではと思っています。ギターの音も「Norwegian Wood」や「Run For Your Life」とは響きが違うので、ポールがエピフォン・テキサンを演奏しているのではないでしょうか。ポールはアコギだけでなく、オルガン(リンゴが担当したらしい)と絡むエレキ・ギターも演奏していると思われます。この説が正しければ、使用楽器はエピフォン・カジノ一択です。時折り入るオブリガードは、ジョージのフェンダーストラトキャスターでしょう。トレモロがかかったようなサウンドですね。ベースはリッケンバッカー4001だと思うのですが、トーンを絞って柔らかい音になっています。自分で書いてて何ですが、ポールの演奏楽器が多くて、締め切り間近のレコーディングで普通せんよなぁって疑心暗鬼になっております(苦笑)。リンゴのドラムはシンバルを一切叩かず、スネアとバスドラのみ使っています。楽曲を通してスネアが実に不安定で、叩きそこないがあったりして、シンバルを叩いてないことが多少なりとも影響あったのかもしれません。シンバルの代わりなのか、ペチペチとリズムを刻む音が聞えますが、リンゴが指でマッチ箱を叩いた音だそうです。思わず唸るほど効果的...とも思えず、普通にシンバル叩いてた方が良かったのではと思ってます。ここまで登場してないジョンは、タンバリンを担当していたのかな。

ポールのヴォーカルはダブルトラックです。アコースティック風味の強い曲でありながら、ポール渾身のシャウトも楽しめます。何度も書いてますが、キーが高いのに野太いシャウトができるのが、ポールのヴォーカルの素晴らしさ。この曲では出番の少ないジョンですが、"You don't look different~"のパートのハモリは絶妙で、聞き逃すことがないよう全神経を集中させたいポイントですね。

「You Won't See Me」と同じく、当時の恋人ジェーン・アッシャーと疎遠になったことがこの曲のテーマです。彼女の女優としての仕事にポールは否定的で、女性は家にいるべきという保守的な考えでした。一方、自身の女性関係は自由奔放だったようで、ポールのこのメンタリティは自分も見習いたいです(爆)。ジェーンと上手くいってない憤りとか喪失感を吐き出すように野太いシャウトをしていますが、心のモヤモヤをぶちまけて、「悪かったのは僕だったよ、ジェーン」と深く反省したのではないでしょうか。知らんけど。