本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

I Should Have Known Better

映画と同様、アルバムでも2番目に登場するポップな楽曲です。彼らのルーツであるR&Bモータウンのガールズポップ臭が希薄で、フォークソングっぽくも感じます。フォークソングといってもトラディショナルなやつではなく、日本のフォークソング風なんですが(笑)。彼らの作品で同系統の曲が思いつかず、結構珍しい作風だと思っています。キーGメジャーのダイアトニックコードで構成されていますが、唯一使われているノンダイアトニックコードのB7の存在が、お気楽なフォークソング風になるのを食い止めてビートルズらしい作品にしています。

 演奏面ではジョンの弾くJ-160Eの存在感が大きく、楽曲全体を牽引しています。音鳴りが悪いのが定説のJ-160Eを気持ち良さそうに演奏しています。主に手首のスナップを利用するジョンのストロークのスタイルでは、綺麗に音を鳴らすのが難しそうなもんですが、これだけ音が鳴っているのは相当スナップが強いんでしょうね。「A Hard Day's Night」のレビューでも触れた”キン!キン!”聞こえる金属音も、このスナップの強さがあってこそだと思います。

ジョンはイントロと間奏でハーモニカも演奏しています。楽曲のキーはGメジャーですが、キーがCのハーモニカを演奏しています。このハーモニカをコピーした人なら分かると思いますが、楽曲全編ほぼ吸いっぱなしの演奏するのが超困難なプレーです。ステレオ盤ではイントロのフレーズの途中で途切れるのですが、息が続かなかったからだと思われます。そのことを非難するより、よくぞそこまで息が続いたもんだと賞賛すべきプレーじゃないかと思っています(笑)。映像ではジョンは楽しそうに演奏してますが、あんな表情で演奏できるフレーズではないということです(苦笑)。こんなに超ハードなハーモニカ演奏を、当初ヴォーカルと同じテイクで録音しようと試みていたそうですが、無謀にも程がある(苦笑)。第9テイクからハーモニカとヴォーカルを別録りにしたそうですが、それにオーバーダビングを加えたものがOKテイクとなったそうです。

ポールのベースはメロディアスとは言えないものの、ある程度フレーズは作りこんできたんだろうなって思えるもので、楽曲が単調にならないような工夫の跡が見られます。一方リンゴのドラムは2拍4拍のバックビートに徹しており、オカズが一切入りません。ハイハットの叩き方が、リンゴ独特の団扇を仰ぐようなスイングなので、アタック音が柔らかくなっています。テンポが結構速いので、リンゴはキツかったのではないでしょうか。ジョージはリッケンバッカー360/12を弾いています。YouTubeにアップされていたアウトテイクを聴くと、当初は楽曲の最初から最後までずっと演奏していたようです。イントロやAメロでは8ビートでコードストロークしているのですが、正直うるさい(苦笑)。完成品ではBメロと間奏でしか登場しないのですが、登場回数を絞って正解。フレーズ自体は難しいものではありませんが、楽器の音自体が存在感あるので、ものすごく印象に残ります。

ジョンのヴォーカルはダブルトラックになっているのですが、2回目のBメロのところだけシングルトラックになっています。ミスではなく意図的なものだと思いますが、ダブルからシングルになった箇所はジョンのヴォーカルに清涼感が増して、サウンドの変化が良いアクセントになっていると思います。何でもかんでも詰め込むのではなく、あえてマイナスするセンスが光ります。

ところで、この曲は映画の中で2回登場するのですが(列車内でトランプしているシーン、クライマックスの演奏シーン)、クライマックスの演奏シーンはキーが半音下げられています。生演奏ではなく口パクなのでキーを下げる理由は全くないのですが、監督のリチャードレスターによると技術的な問題によるものだそうです。この曲の演奏シーンではモニタールームの様子が映っているのですが、映画撮影用のカメラではモニターがキレイに映らなかったため(黒い帯状のノイズが上下する)、その回避策をとった結果キーが下がったそうです。映画撮影用のフィルムスピードは世界共通規格24fps(フレーム/秒)なのですが、イギリスのテレビはPAL方式と呼ばれる25fpsが採用されています。毎秒25フレームで撮影されたテレビモニターを、毎秒24フレームで撮影したため上記のノイズが発生したとのことです。そこでこのシーンの時のみ、イギリスのテレビモニターに合わせて25fpsで撮影したそうです。それを通常の24fpsで再生するので(25fpsより遅くなる)キーが下がるという訳です。「なるほどな~」とこれを知った時は凄く感心したのですが、人によっては割とどうでもいい情報なんですかね(汗)。同様の理由で「And I Love Her」「Tell Me Why」も映画ではキーが半音低くなっています。