本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

Nowhere Man

デビュー後のビートルズのライブ活動は、1公演につき約35分11曲程度しか演奏しなかったため、ライブ演奏されたことのないアルバム収録曲は数多く存在します。その傾向は『Rubber Soul』から拍車がかかり、このアルバムからライブ演奏されたのは2曲しかありません。そのうちの1曲がこの「Nowhere Man」で、日本公演でも演奏されました。ジョン・ポール・ジョージの3声のハーモニーがライブ演奏する際のネックになりそうなものですが、過去には「This Boy」とかライブ演奏していますし、ハーモニーによほど自信があったのでしょう。

1965年10月21日のセッションで「Norwegian Wood」を完成させてから着手しました。リハーサルのあと2テイク演奏したものの、楽曲を練り直すことになってこの日の録音は終了。翌日の午後のセッションでリメイク版の録音に着手。第3テイクから3テイク録音して、第4テイクをベストとしてベーシックトラックに採用されます。ちなみにベーシックトラックはジョン、ポール、リンゴの3人で録音し、エレキギターはダビングされたものです。その日の夜のセッションでヴォーカルを録音し、楽曲が完成します。

イントロなしで始まる3人のハーモニーの素晴らしさに、いきなり心を鷲掴みにされますね。ハーモニーは上からポール、ジョン、ジョージの順番で、ビートルズのハーモニーあるあるの上下のパート入れ替えはありませんが、一番下のジョージのパートの音がとりにくいかなと思います。3人の息の合ったハーモニーによる倍音の効果と、ダブルトラッキングのヴォーカルにより、心にガツーンとくる音のカタマリ感がハンパない。音のカタマリ感に関してはイコライジングなどスタジオで手を加えられてるんでしょうけど、いずれにしてもヴォーカルに勝る楽器はないことを改めて強く感じます。3人のハーモニーが、サビでヴォーカルとコーラスに分かれる瞬間は、何度聴いてもゾクゾクします。

『Rubber Soul』収録曲全般的に使用楽器が少ないのが特徴ですが、中でもこの曲は4ピースのバンド形態の楽器しか使われていません。ジョージはストラトキャスターを演奏しています。ポールの発案っぽいトレブルの効いたギター・サウンドは、嫌がるエンジニアを説き伏せて実現。ミキサーのトレブルを目一杯上げて、それをミキサーの別チャンネルに繋いでまたトレブルを上げて...を繰り返し、あの独特のサウンドが出来上がったようです。間奏のギター・ソロは、全く同じフレーズをジョンも一緒に演奏しています。ジョンもストラトキャスターを演奏しているので、何となく聴いていると2人で演奏していることは分かり難いです。最後のハーモニクスはジョージだけが鳴らしているので、そこでユニゾンとの違いがハッキリ分かります。ジョンはベーシックトラックではJ-160Eを演奏しています。アカペラで曲が始まって、4小節目の最後にウラで引っ掛けて楽曲に入ってきます。前述の通り使用楽器数が少ないので、他のビートルズの楽曲と比べてJ-160Eの音がハッキリと聞えます。

ベースは上がり下がりの激しいフレーズです。ポールの右手は指板を縦横無尽に動きまわっています。ショートスケールのヘフナーとは違い、リッケンバッカーでこのフレーズを演奏するのは、右手がかなり厳しかったのではと思います。この曲のライブ演奏がショート・バージョンだったのは、、ポールの右手の握力がもたなかったからではないでしょうか。今思いついたことなので、信じないようお願いします(爆)。こんなに動きのあるフレーズを弾きながら、ジョンとほぼ同じくらいのヴォーカル・パートをこなすポールは、シンプルに凄いなと思います。リンゴはハイハットを閉じてのバック・ビートが基本パターンですが、要所要所でドラムロールを披露しています。ビートルズの楽曲でドラムロールは数少なく、この曲と「All You Need Is Love」くらいじゃないかな。他にもあったかもしれないので断言しませんが(笑)。サビからテーマに戻る時のフィルインがどれもカッコイイのと、これまでよりキックを多用しているのも印象的です。

映画『Yellow Submarine』では、博識だけど自分の殻に閉じこもるジェレミーに呼びかける場面で使われており、個人的には映画の中でも特に好きなシーンです。他の映画挿入曲と比較すると、旧型のビートルズサウンド感は否めませんが、それでも使われたのは映画のスタッフにこの曲の熱烈なファンがいたのでしょう。気が滅入った時ほど心に染み入る、彼らのコーラスワークが秀逸なビートルズ屈指の名曲だと思います。