本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

Can't Buy Me Love

アルバム『A Hard Day's Night』のA面ラストは、既発表のシングル曲「Can't Buy Me Love」です。アメリカでは1964年3月16日に発売されており、イギリスの方はそれより遅い1964年3月20日に発売されています。アメリカの方が先行してリリースされるなんて半年前では考えられない事態ですが、それだけ「I Want To Hold Your Hand」のヒットのインパクトが大きかったのでしょう。

 イギリスでは予約だけで100万枚売れた初のシングルってことなんですが、予約はしたけど結局買わなかったって人がいなかったのか気になるところです(笑)。アメリカのビルボード誌のチャートでは1964年3月28日に27位で初登場、翌週4月4日に1位に駆け上がっています。ビルボード誌において、初登場から2週目で1位になったこと、1位になる直前の順位からの上がり幅は新記録だったそうです。そして1964年4月4日と言えば、ビルボード誌のトップ5をビートルズの楽曲が独占した時で、そんな歴史的な週に1位を記録した凄い曲なんです。

レコーディングは1964年1月29日、パリ滞在中に行われました。この日のレコーディングは、ドイツ語版の「She Loves You」と「I Want To Hold Your Hand」を録音するのが目的でした。彼らにとっては不本意なレコーディングだったのですが、手早く済ませて余った時間でこの曲をレコーディングしました。わずか4テイクでレコーディングは終了し、1月31日にもスタジオは予約されていたのですがキャンセルとなりました。

初期のテイクが『Anthology』などで聴くことができますが、ゴリゴリにブルージーなテイストだったのには驚きました。ジョンやジョージのコーラス、ジョージのギターリフをカットしたのと、キーを下げたことでブルース臭が薄れてメロディの良さが際立ったと思います。ブルース臭を排除したのがメンバー主導かジョージ・マーティンのアドバイスかは分かりませんが、初期テイクのままだったらこれほどのセールスを記録したかどうか。結果的にこの曲に関してはブルース臭が薄れましたが、ポールのオリジナル曲にはブルージーな曲が意外と多いです。

基本的にジョンとポールとリンゴの3ピースの演奏で、時折りジョージのギターで楽曲に変化を与えています。リッケンバッカー360/12が使われた初めての曲で、テーマのところだけ登場します。正直なところ効果的なプレーとは思えませんが、手に入れたばかりでどうしても使いたかったんだろうな、ジョージ(笑)。間奏のギターソロもジョージが演奏しています。ギターソロの方はカントリージェントルマンを使っているようです。ほぼ同じフレーズをダブルトラックで演奏しているのと、もう一本うっすらと聴こえています。戦力になっているかは微妙なところで、意図的に残した音ではないのではと思っています。ポールのベースは4ビートの演奏ですが、「All My Loving」や「Tell Me Why」ほど上がり下がりのないフレーズです。ただ、中空ボデイのヘフナー特有のサスティンの短さがこの曲にはマッチおり、ヘフナー社公認の名演の1つと言っても過言ではありません(笑)。リンゴのドラムは、テーマではシンバルなしのバスタム連打、それ以外は2拍4拍のシンプルなプレーに徹していますが、ジョンのJ-160Eと合わせて楽曲のノリを決定づける重要なパートです。ジョンはこの曲でも、音が鳴らないことに定評のあるJ-160Eを気持ち良さそうに鳴らしています。

楽器演奏がこれだけシンプルでも物足りなさを感じないのは、メロディの良さに加えてポールのヴォーカルの力に拠るものと思います。初期バージョンよりキーを下げたことで、ポールのヴォーカルから力みがなくなり聴きやすくなったと思います。小細工無しの外連味のないヴォーカルは、まるでそれ単体で食べても美味しい白飯のようです(なんじゃ、そりゃ)。初期バージョンのジョンとジョージのコーラスもなかなか良かったのですが、これもカットして正解だったかなと思います。

「I Want To Hold Your Hand」のレコーディングから4トラックのレコーダーを使い始めたのですが、トラック数が増えるとあれもこれも詰め込みたくなるのが人情ってもんです。しかしながら余計なものを削ぎ落して、ポールのヴォーカル一本で勝負したのが大正解の一曲。名曲「You Can't Do That」がB面に追いやられたのも致し方ありません。