リトル・リチャードの作風を意識してポールが作曲したと言われており、彼らがカバーした「Long Tall Sally」の影響を強く感じます。似たようなテイストではありますがメロディそのまんまではなく、いわゆるオマージュの範囲内ではないでしょうか。「Long Tall Sally」にとって代わって、コンサートのラストナンバーとして演奏されるようになります。ところがどういう訳か、彼らの最後のコンサート・ツアーとなった1966年のアメリカ・ツアーでは、「Long Tall Sally」がラストナンバーとして演奏されています。
ジョンはギターではなくオルガン(VOX Contrinental)を担当しているので、ベーシックトラックはジョン:オルガン、ポール:ベース、ジョージ:ギター、リンゴ:ドラムの構成で演奏しています。間奏でのジョージのギターソロはオーバーダビングではなく、ベーシックトラック録音時の演奏が採用されています。アルバム『Help!』レコーディング時、ジョージはグレッチ・テネシアンをメインギターをして使用していますが、音がバキバキに硬くて深みに欠けるのが特徴です。そのサウンドが個人的に好みでないからかもしれませんが、ギターソロの演奏が随分と心許なく聞こえます(「Bad Boy」や「Dizzy Miss Lizzy」も同様)。フレーズ的にもあまり完成度が高いと思えませんが、フレーズを作りこむのに充分な時間がなかったのかもしれませんね。
ジョンのオルガンは、コンサートでも披露した肘グリグリが有名ですが、再現するのは意外と難しいプレーです。2回目の間奏で肘グリグリも含めてけたたましくコードを鳴らすプレーが前面に出てきますが、それ以外の箇所ではあまり前面に出てきません。同様にポールのベースも前面には出てこなく(ベースってそういうもん)、あまりフレーズがハッキリ聞こえません。芯のない甘めの音で、ルート音を中心に演奏している感じです。一方リンゴは絶好調で、ブレイク後のフィルインがことごとく決まって楽曲に勢いを与えてます。リンゴはボンゴをオーバーダビングしていて、あまり目立ちませんが楽曲の最初から演奏しています。2回目の間奏後からは急に前面に出てきて、激しく打ち鳴らされるシンバルと併せて楽曲のヴォルテージが一気に上がります。
この曲の最大の聴きどころはポールのヴォーカルです。「Long Tall Sally」と同じく高い音でも野太くシャウトできる、ヴォーカリストとしてのポールの魅力が凝縮された1曲です。「Long Tall Sally」のレコーディングから1年くらいしか経っていませんが、シャウトにも大人の余裕が出てきたような気がします。加えて、コーラスとの掛け合いが楽しめるのが、彼らのオリジナル・ナンバーならではの魅力と言えるでしょう。コンサートではジョンとジョージが担当していたパートを、レコードではポールとジョージが歌っているように聞こえます。ジョンは低い声で「ダーゥン♪」ってパートを歌っています。
ここ数年のポールのコンサートでは、アンコールで「Helter Skelter」を演奏するのがお決まりになっています。「こんなハードな曲も歌えるんだぞ」ってアピールの意味合いもあると思っているのですが、それだったら楽器のアンサンブルやコーラスが楽しめる「I'm Down」を演奏して欲しいなとポールにはリクエストしたいです。