本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

Day Tripper

11枚目のシングル曲として「We Can Work It Out」とこの曲が録音されました。どちらをA面曲にするか議論した際、「We Can Work It Out」が優勢だったところ、ビートルズのシングルはロックサウンドであるべきとジョンが譲らず、ビートルズ史上初の両A面シングルとして発表されました。ほんとにジョンが「...ロックサウンドであるべき」てな表現をしたのか分かりませんが、ジョンが譲らなかったことに関係者は難儀したことだと思います(苦笑)。両A面シングルという着地点を見いだせて良かったなと思います。ところで、ビートルズ以前に両A面シングルは存在したのでしょうか。イギリスでは「We Can Work It Out」と1曲扱いでチャートインし1位を獲得したのに対し、アメリカのビルボード誌では2曲ともがチャートインし、「We Can Work It Out」が1位「Day Tripper」が5位を記録しています。

印象的なギターリフはジョンが考えたそうです。ストーンズの「Satisfaction」に触発されたって説を見たことありますが、言われてみれば似てなくもないかなと思います。このギターリフはダブルトラックで、2本の異なるギターで演奏されているようです。これまでジョージが愛用してきたグレッチのカントリー・ジェントルマンとテネシアンという説をよく見かけますが、長らくレコーディングに使っていないカントリー・ジェントルマンを引っ張り出してくるとは考えにくく、音を聴いてもテネシアンっぽさは感じられません。小さめにミックスされてる方がストラトキャスター、大きめにミックスされている方はこの頃に入手したギブソンのES-345ではないかと思います。ジョージがエピフォン・カジノを入手するのはもう少し先で、1965年の年末のイギリスツアーでもES-345を使っており、サウンド的にもES-345と考えるのが一番しっくりきます。もしくは、ポールがカジノを演奏している可能性はありますが、さすがにこの説はぶっ飛び過ぎか。ダブルトラックのギターは間奏では別々のフレーズを弾いています。ギターソロを演奏している方は後から録り直したもので、ストラトキャスターではないかと思います。もう一方のギターは、1拍置いてBから1音ずつ上がっていくフレーズです。サウンド的にはこっちがES-345で、ボリュームペダルでフワーっとした音を出しています。

ジョンはストラトキャスターでコードを鳴らしているようです。コードフォームというかヴォイシングが凝っていて、Eのコードは1~2弦を開放にしつつ人差し指で7フレッド目の3~5弦を押さえています。続くAのコードでは、1弦を開放にしつつ第2フレッドの2~4弦を押さえています。武道館公演の映像でジョンの左手のフォームは確認することができます。押さえにくいコードフォームですが、うっかり開放弦をミュートしてしまうとサウンドがガラっと変わってしまいます。

ポールはアルバム『Rubber Soul』のレコーディングから使い始めたリッケンバッカー・4001を演奏しています。イントロやヴァースではジョージのギターとユニゾンのフレーズを、ネックの中央付近のポジションで演奏しています。ギターと同じポジションで演奏した方が開放弦を多用できて右手は楽だと思いますが、サウンド的にしっくりこなかったので敢えて弾きにくいポジションで演奏したのではないでしょうか。ギターとのユニゾンは、この曲の前にレコーディングした「Drive My Car」で上手くいったので、アイデアを流用したのかもしれません。"(She was a)Day Tripper"のパートではギターが低音弦のカッティングなのに対し、ベースは動きの激しいフレーズを演奏しています。一転して間奏では大人しくなって、音の長さを変えながらBの音だけを鳴らしています。

リンゴのドラムは楽曲の展開に合わせてパターンを変えています。リードギター、ベース、リズムギターとタンバリン、てな感じでイントロから順番に楽器が増えていき、タムの連打でリンゴが雪崩れ込んでくると一気に楽曲のボルテージが上がります。ヴァースはバックビート、コーラスでは頭打ち、間奏ではそれに加えてシンバル打ち鳴らしながらバスドラも連打、アウトロでは3連のフレーズを交えたりと、オーバーダビングのタンバリンと合わせて手を変え品を変えスリリングな演奏です。

ジョン作の曲にもかかわらず、歌いだしはポールのソロ・ヴォーカルです。「A Hard Day's Night」や「Anytime At All」と同じように、ジョンが歌うには少々音程が高すぎるからでしょうが、心情的になかなかできることではないと思います。それだけ、ポールに高い信頼をおいているのでしょう。ライブ演奏では、ジョンも一緒に歌っているんですけどね。ポールのソロ・ヴォーカルに続いて、ジョンのハモリが加わるのですが、音を取り難くて意外と難しいパートです。コーラスではポールに取って代わってジョンのヴォーカルが前面に出てきます。がなり立てるのではなく、腹の底から声を出すのがポイントでしょうか。

美味しいところがテンコ盛りにも関わらず、洗練されてスタイリッシュな楽曲に仕上がっています。熱いんだけど暑くない、汗とは無縁の爽快感がたまらなくカッチョイイです。こんなに濃厚な曲がシングルB面なんてありえない。「We Can Work It Out」と両A面に落ち着いたのは当然の結果でしょう。

こっちは武道館公演