本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

The Word

「過小評価されているビートルズの楽曲」という不名誉なランキングが存在したら、堂々の1位はこの曲ではないかと思っています。「堂々の1位」と言うのも変な話ですが(苦笑)。「概念としての『愛』をテーマにした最初の曲」的な紹介文もあって、それはそれで間違いではないのですが、そんなことより「アレンジやメンバーの演奏が超カッチョイイ」ということを真っ先に触れるべき楽曲でしょう。この曲に関するジョンやポールのコメントによると、「Long Tall Sally」を引き合いに出して記憶に残る曲を作ろうとしたそうです。このコメントを知るまで、この曲から「Long Tall Sally」を連想したことなど一度もありませんが、ビートルズ全作品で最もブラックなグルーヴはリトル・リチャードゆずりなのかもしれません(この辺テキトウ)。

レコーディングは1965年11月10日に行われ、3テイク目に色々オーバーダビングして完成しています。ベーシックトラックでポールはピアノを演奏しています。この曲ではピアノが楽曲を牽引しており、とても重要なパートです。ジョン主導で出来た曲ですが、ポールも曲作りに関わっていることから、曲作りと同時並行でピアノのアレンジも出来上がったのではないかと思います。ジョンとジョージは共にストラトキャスターを弾いています。ジョンは鋭くリズムを刻むカッティング、ジョージはサビで登場する単音のリフを演奏しています。ジョージが演奏しているリフはダブルトラックで、ステレオミックスだと左右に振り分けられています。ただ、当時はモノミックスが主流だったことを考えると、ステレオ効果を狙ったのではなく、音に厚みをもたらすためダブルトラックにしたのではと思います。リンゴのドラムはフィルインが悉く素晴らしく、シンプルなドラムセットから繰り出されたとは思えない、バリエーション豊富なフィルインを披露しています。リンゴはデビュー当時から素晴らしいドラマーですが、さらに偉大なドラマーにステップアップしたことを感じさせる演奏です。ベーシックトラックでピアノを演奏したポールは、ベースをオーバーダビングしています。基本フレーズにアドリブ要素を加味して、曲が進むにつれ自由奔放さが増していきます。ギター、ピアノ、ドラムのリズムがカッチリまとまっているのと、オーバーダビングだからやり直しできるってことで、ポールも思い切った演奏ができたのではと思います。硬くで重いサウンドはリッケンならでは。恐らくフィンガーピッキングではないかと思います。楽曲後半に雪崩れ込んでくるハーモニウムは、ジョージ・マーティンが演奏しています。「We Can Work It Out」で牧歌的な雰囲気を演出していたのと同じ楽器とは思えない、聴いていて不安を掻き立てるようなヒリヒリするサウンドです。フレーズといい、音色といい、この楽曲にピッタリです。

ジョンとポールのデュエットは、どちらのパートも主旋律に聞えない不思議なハーモニーです。ジョン主導で出来た曲のはずですが、どっちかと言うとポールの方が主旋律で、ジョンが下にハモってるような感じです。しかも、ポールのパートからどんどん音が離れていく、微妙と絶妙のギリギリのラインを攻めているハーモニーです。サビでは一転して、パワフルで爽快なジョンのヴォーカルが楽しめます。デュエットのパートはジョンとポールともにダブルトラックなのに対し、ジョンのソロ・パートはシングルトラックで処理されています。ダブルトラック→シングルトラックのスタジオ効果と、ジョンのメリハリ効いたヴォーカルの力で、楽曲の世界観が一気に変わりテンションが上がります。エンディング近くには、ジョージもハーモニーに加わりダメを押す徹底ぶり。『Rubber Soul』のレコーディングは、時間的猶予も楽曲のストックもない状況で行われたと言われていますが、そうとは思えないくらいアイデアがテンコ盛りです。

この曲の4人のヴォーカルや演奏からは、大英帝国から重要な任務でも課せられたんじゃないかってくらい、ヒリヒリした緊張感が伝わってきます。ビートルズの4人+ジョージ・マーティンが織りなすグルーヴを楽しむだけでなく、この曲のカッチョ良さを伝えることを自分の任務として、この投稿が少しでも多くの人の目に触れると良いなと思います。

恐らくフィンガーピッキングと書いたが、このライブではピック使ってます(汗)。