本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

We Can Work It Out

ビートルズ初の両A面シングルとして「Day Tripper」と共に発表され、当時のビートルズにとって平常運転の1位を獲得し、商業的にも成功を収めました。これまでもシングルをリリースする度に新しい試みをぶっこんできましたが、この前のシングル「Help!」との作風の振れ幅は過去最大と言っても過言ではないでしょう。ジョンが「Day Tripper」のシングルA面を譲らなかったのは、「We Can Work It Out」がこれまでのシングル曲にはない作風であることに、不安を感じていたのかもしれません。これまでの作風との違いにより、付いてこれなくなったファンもいたかもしれませんが、それ以上に新たなファンの開拓に成功しています。

YouTubeにアップされているテイク1を聴く限り、ベーシックトラックはドラム、ベース、アコギ、タンバリンの構成です。アコギについては12弦ギターという情報を見たことがあるのですが、独特の金属音も時折り聞えるのでJ-160Eを演奏していると思います。ジョンかジョージどっちが演奏しているのか悩ましいのですが、Take1演奏前のメンバーの会話が残っているらしく、それによるとジョンがアコギ、ジョージがタンバリンを担当しているようです。ベーシック・トラックでジョージがタンバリンを演奏したのは、後からリードギターを録音する予定だったのではないでしょうか。ベースはリッケンバッカーならではの芯のある硬い音で、楽曲の雰囲気に相反してゴリゴリのフレーズです。リンゴは「Day Tripper」と同じく、楽曲の展開に合わせた歌心のある演奏を披露しています。ポール作の曲なのでポールが色々要求したことは考えられますが、リンゴ自身の演奏スタイルも前作『Help!』あたりから変化というか進歩が見られます。

アコーディオンのような音はハーモニウムと呼ばれる鍵盤楽器です。リードと呼ばれる板に空気をあてて音を鳴らすしくみはアコーディオンと同じで、ハーモニウムでは足ふみ式のペダルでリードに風を送り込みます。インド楽器のハーモニウム(ハルモニウム)は、イギリス統治下時代のインドにイギリスから輸入され、それをインド音楽用に改良されたものです。この曲をレコーディング中に、スタジオに置いてあったこの楽器をメンバーが発見し、試しにジョンが演奏して採用が決まったようです。この音色を聞いて"Life is very short~"のパートの3連のリズムの導入をジョージが発案したと思ったら、ハーモニウムを試す前に3連のリズムを採用しています。この3連のリズムは、ハンブルグ時代に街頭で聞いたアコーディオンの演奏が、アイデアの素になったようです。

レコーディングは1965年10月20日に行われ、テイク2にハーモニウムやヴォーカルをオーバーダビングして完成しています。ヴォーカルのオーバーダビングに時間を費やしたそうですが、複雑なコーラスやハーモニーはないのに時間がかかったのは、ポール(あるいはジョージ・マーティン)がヴォーカルの出来にこだわったからでしょう。これまでのブルージーなヴォーカルに加え、ポップで軽やかなヴォーカルスタイルが確立したのがこの頃ですね。ミドルの"Life is very short~"のパートは、ジョンのマテリアルを合体させたのではなく、ポールによるとジョンとの共作だそうです。ジョンが黄昏ヴォーカルでハモった途端、ポジティブな空気に満ち溢れていた楽曲の世界がガラっと変わります。

冒頭の話に戻ると、これまでのシングル曲とは明らかにスタイルが異なる楽曲で、この曲をシングルA面に推すのは相当なチャレンジャーだと思います。前作に収録された「Yesterday」が、音楽的にも商業的にも成功したことが、後押しになったような気もします。結局「Day Tripper」ともに商業的にも大成功で、ビートルズが凄いのは当然ですが、作風の変化についてきた当時のファンも大したもんだと思います。この両A面2曲の成功が、次作『Revolver』製作の布石になったのではないでしょうか。