本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

Yesterday

1965年6月14日のレコーディングで、「I've Just Seen A Face」「I'm Down」に続いて最後に録音されました。「I'm Down」の後この曲を演奏して、気持ちの切り替えとか喉が大丈夫だったのか色々と気になりますが、一時間半のブレイクを挟んでるのでそこでリフレッシュしたんでしょう、きっと。ジョージ・マーティンによると、最初にこの曲を聞いたのが1964年1月ってことなので、一年以上ポールの中で温められていたことになります。朝目覚めたらこの曲が出来上がっていたという信じがたいエピソードがありますが、既存の曲を知らずに引用してないか不安になって何人かに確認してるぐらいなので、多少の誇張はあっても実話なんだろうと思います。6月14日はアルバム『Help!』のレコーディングが再開した日で、この日にストリングスのレコーディングも終えているので、レコーディングの中断期間中にポールはジョージ・マーティンとストリングスのアレンジについて打ち合わせをしたのでしょう。アレンジについてはジョージ・マーティンに丸投げではなく、2人で考えてポールのアイデアも色々と採用されているようです。

言及されてるのをあまり見たことありませんが、一般的な楽曲は1コーラスが偶数の小節数で構成されているのに対し、この曲は奇数の7小節で1コーラスが構成されています。自然発生的に生まれた曲ならではの構成で、「さぁ、作曲するぞ!」と身構えて作っていたらこうはならなかったでしょう。また、楽曲のキーがFなのも自然発生的に生まれたからこそって感じがします。キーFを構成するコードは、ギターだったら開放弦をあまり使えず演奏するのがしんどいので、自分のように意思の弱い人間は避けると思うのです(爆)。そういえば、目が覚めたら出来上がっていた曲を最後にピアノで仕上げたってエピソードを見たことあるので、まったく関係ないかもしれません(苦笑)。ピアノのことは全然分からんけど、キーFの曲は黒鍵が多く登場するハズなので弾きにくいと思うんですけどね。レコーディングではギターのチューニングを1音下げて、キーをGに置き換えて演奏しています。ギターを演奏しやすくするのと、弦のテンションを緩めたことによるサウンドの面白さ、その両方を狙ったのではと思います。楽曲のテンポが速いのも見落とせないポイントです。

ポールお得意のギタープレイを披露した最初の曲です。ポール曰く、アルペジオを正確に弾けないことによる自己流のスタイルってことですが、親指でベース音を鳴らしながら人差し指のストロークで綺麗な音を鳴らすのは、これも難易度の高い演奏スタイルです。難しいコードはありませんが、コードチェンジが多いのでコードを抑える方の手は忙しいです。使うコードをもう少し減らしても楽曲は成立すると思いますが、音楽としての面白さや美しさは損なわれるでしょうね。ベーシストらしく、各コードのベース音をしっかり鳴らして演奏しています。コードチェンジが多いのは、ベースラインの動きを意識した結果なのかもしれません。Gコードは2弦3フレットのDの音も鳴らす押さえ方で、ジョンも使っているコードフォームです。

この美しいメロディの曲を、ポールは淡々と歌っています。歌い方についてはポールの意思ではなく、ジョージ・マーティンから指導されたのかもしれません。思い入れたっぷりの過剰な歌い方でないからこそ、メロデイの美しさや歌詞の世界観が際立つのかもしれません。「I've Just Seen A Face」と同じく、歌い方の見本のないオリジナル曲をとても上手く歌っていると思います。1965年6月14日にレコーディングされた「I've Just Seen A Face」「I'm Down」「Yesterday」の3曲は、楽曲の良さに加えていずれもヴォーカルが素晴らしく、この日のポールは後光が差すほど神懸かっていたのではないでしょうか(笑)。

バンド向きの楽曲でないにも関わらず、ビートルズはこの曲をコンサートで演奏しています。ビートルズのライブ演奏活動中、セットリストに加えた曲は少なくともレコーディングで演奏しているのですが、この曲についてはポール以外の3人はレコーディングに参加していません。ツアーの前に充分なリハーサルの時間があったと思えないので、バンドスタイルにアレンジし直すなど、これまでになかった苦労があったのではと思います。そう言えば、1965年のイギリスツアーでは、ポールはこの曲をオルガンで演奏したそうです。

名古屋で観たポールのコンサートでは、アンコールでこの曲が演奏されず非常に落胆したのを強烈に覚えています(「The Long And Winding Road」も演奏されなかった)。ビートルズに思い入れのない人にも知れ渡っているこの曲に対し、あまり良いイメージがないはずだったのに、セットリストに入ってなくて凄く動揺したことに自分自身が驚きました。ビートルズを代表する曲と言われると違和感ありますが、ビートルズの全作品の中でも極めて重要な作品であることは間違いありません。