本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

Think For Yourself

充分な楽曲のストックがない状況でレコーディングが開始されたアルバム『Rubber Soul』は、レコーディング期間中も作曲活動に追われる自転車操業で、なんとか完成に漕ぎつけました。「Think For Yourself」はレコーディング期間の終盤、1965年11月8日にレコーディングが行われたことから、『Rubber Soul』のレコーディングと並行して、ジョージが作り上げた可能性があります。11月4日にはジョージが主導したと思われる「12-Bar Original」をレコーディングしたものの結局ボツになっており、いよいよ「ケツに火が着いた」心境だったのではないでしょうか。

この曲のサウンドの核は「ファズ」と言われる歪んだベースの音でしょう。いわゆるファズ系の音を作るエフェクターには、ファズフェイス系、ビッグマフ系、トーンベンダー系、トレブルブースター系...色々あるのですが、「Think For Yourself」のファズ・ベースはトーン・ベンダーを使っているようです。自分も所有している書籍「BEATLES GEAR」によると、VOX社の技師ディック・デニー作のトーン・ベンダーということになっていますが、それに異を唱える人物がいます。ゲーリー・ハーストなる人物が、マル・エヴァンスからの電話でトーン・ベンダー2台の注文を受け、リハーサル中のビートルズに自作のトーン・ベンダー2台を納品し、それが「Think For Yourself」に使われたと主張しています。ゲーリー・ハーストはVOX社のテクニカル・サービスを担当していた人物で、恐らくビートルズが使用していたアンプ類の保守をしたことがあったのでしょう。ゲーリー・ハーストがVOX社のテクニカル・サービスを退職した後、彼が開発した「Tone Bender MK1」が世に出たのが1965年の夏。その販売を引き受けたのがSOLA SOUNDS社でした。ゲーリー・ハーストがビートルズに納品したのは、「Tone Bender MK1」の改良版、まだ世に出る前の試作品であった「Tone Bender MK1.5」だったそうです。この手の話は世の中にゴマンとあるので、ゲーリー・ハーストの主張が正しいのか判断つきませんが、話半分程度に聞いておくのが精神衛生上よろしいのではないかと(笑)。この曲のファズ・サウンドについて、フィル・スペクターがプロデュースした「Zip-A-Dee-Doo-Dah」という曲をジョージは引き合いに出しており、ベースにファズをかけるアイデアを出したのはジョージだったのかもしれません。ドラムのパターンが「Be My Baby」風なのも、意図したものだったのでしょう(「Be My Baby」はフィル・スペクターがプロデュース)。ちなみにベーシック・トラックでは、ファズなしのリッケンバッカーをポールは演奏しています。オーバーダビングしたファズ・ベースは、リッケンではなくヘフナー説を目にしたことがありますが、言われてみれば中空のボディのヘフナーっぽい音に聞こえます。ジョンはベーシック・トラックにギターで参加したという情報を目にしたことありますが、レコードには使われていないようです。代わりにハモンドオルガン(Hammond RT3)をオーバーダビングしています。ジョージはフェンダーストラトキャスター、リンゴはドラムのほかにタンバリンとマラカスをオーバーダビングしています。

この曲のコーラス・パートのリハーサル時の音源が、映画『Yellow Submarine』に使用されています。Aメロの3声のコーラスは、上からポール→ジョン→ジョージの順番で、ジョンのパートが最も難しいようです。さすがのジョンも手こずったようで、上手く歌えないことを嘆いてる様子がテープに残っているそうです。サビのメロディは、ジョージとポールの2人のハーモニーで、ここにはジョンは参加していません。ポールのパートは、メインのメロデイに付かず離れずの感じが絶妙で、メイン・ヴォーカルを引き立てる職人っぷりです。

ほんの半年前の「I Need You」とか「You Like Me Too Much」と同じ人が作ったとは思えない辛辣な内容です。単に作風が変わったというよりも、作る楽曲のグレードが上がったことを感じます。レノン&マッカートニーという高いハードルを超えるには、コンポーザーとしての成長は必然だったと思います。ジョージの楽曲が、ビートルズサウンドの一旦を担うようなったことを証明する一曲だと思います。

Bob B. Soxx and The Blue Jeans - Zip-A-Dee-Doo-Dah