本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

She Loves You その2

前回に引き続き「She Loves You」についてです。

 前のシングル「From Me To You」では転調を効果的に使っていましたが、この曲でも新たな取り組みをしています。楽曲はいきなりテーマの"She Loves You,Yeah,Yeah,Yeah"を3回繰り返すんですけど、そこのコード進行が1回目:Eマイナー→2回目:Aセブンス→3回目:Cメジャーと遷移していきます。この曲のキーはGメジャーですが、GメジャーのダイアトニックコードにはないAセブンスが使われています。ダイアトニックコードの2番目のマイナーコードをセブンスコードに置き換える手法はジャズのスタンダードで度々登場し、ダイアトニックコードの5番目のコード(ドミナントコード)とセットで使われるそうです。ただ、この曲ではDセブンス(ドミナントコード)には行かずにCメジャー(ダイアトニックコードの4番目のコード:サブドミナントコード)に遷移します。この後、キーであるGメジャーに遷移するのですが、不安定な印象を与えるドミナントコード(Dセブンス)ではなくサブドミナントコード(Cメジャー)を経由した結果、頂点に向かって駆け上がっていく感じが表現できたのではと思います。

この曲にはGメジャーのダイアトニックコードにはないコードがもう1つ登場します。Bメロの最後"Yes,she loves you and you know you should be"で使われているCマイナーです。ダイアトニックコードの4番目のコード(サブドミナントコード)は本来メジャーコードですが、マイナーコードに置き換え可能で、サブドミナントマイナーコードと言うそうです。この部分、CメジャーでなくCマイナーを使ったことで楽曲に少し悲しい雰囲気が漂うのですが、ジャンプの前に一瞬腰を落とすようなもので、この後に続くテーマ"She Loves You,Yeah,Yeah,Yeah"の爆発力を生み出しています。"She Loves You,Yeah,Yeah,Yeah"を2回繰り返し、続く"With A love like that"でもう1回Cマイナーが登場します。少し悲しい雰囲気になった後、不安定な印象を与えるドミナントコード(Dセブンス)を経由してキーであるGメジャーに戻っていきます。恐らくこの頃、ジョンとポールはダイアトニックコードにないコードの使い方を覚えて、それを曲作りに活かしたのではと思います。

こんな風にじっくり分析してみると、当時の彼らが音楽的に目覚ましい成長を遂げていたことが分かります。しかしながら、この曲に関しては理屈だけでは説明できない、何か特別なものを感じます。冒頭の"She Loves You,Yeah,Yeah,Yeah"のたった1フレーズだけで、心を鷲掴みにされて根こそぎ持っていかれます。ジョンとポール(ここはジョージも加わっているのかな)のユニゾンからは、それ以上の人数で歌ってるかのような迫力が感じられます。ロック史上、ユニゾンの最高のパフォーマンスはこの曲だと言い切りたいです。Aメロにはいってからはユニゾンとハーモニーの使い分けが絶妙で、バンドのメンバーだけでなくジョージ・マーティンのアイデアも盛り込まれているのではないかと思います。極めつけがBメロ最後の"Ooh"をファルセットでハモってるところで、"Yeah,Yeah,Yeah"をメロディに乗っけたのと同じくらい斬新だったのではないでしょうか。

この曲以降のビートルズの全作品、ビートルズ解散後においても似たテイストの曲は皆無で、そればかりかビートルズのフォロワーの楽曲でも似たテイストの曲は聴いた覚えがありません。1963年のビートルズ、彼らのスタッフ、音楽シーン、イギリス国内の情勢、それら全てが奇跡的な出会いをして生まれた楽曲ではないでしょうか。この曲は自分にとって特別な曲です。"She Loves You,Yeah,Yeah,Yeah"を初めて聴いた瞬間、「Let It Be」や「Yesterday」を作った歴史上のバンドだったビートルズが、自分にとって唯一無二の存在に変わりました。自分の葬式で流す曲メドレーの1曲目はこの曲に決めています。