本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

Help!

ビートルズの2本目の映画、および映画のサウンドトラック盤のタイトルソングです。1本目の映画『A Hard Day's Night』と同じく、タイトルが先に決まって、それに合う曲をジョンが作曲しました。メッセージソングとしても一定の評価を得ていますが、前述の通り「Help!」というタイトルが決まっていたので、この曲の歌詞についてジョンが言及しているのは後付けじゃないの?と穿った見方をしております。イントロ無しでポールとジョージの"Help!"ってシャウトで始まる導入部は、歌詞だけ取り出すとジョンの悲痛な叫びが痛々しく感じられますが、スリリングなアレンジは楽曲の掴みとしては100点満点過ぎて、英語圏の人であっても歌詞の意味が入ってこないんじゃないかと思います。

ジョンはいつものJ-160Eではなく、フラムス社のフーテナニー(Hootenanny)と呼ばれる12弦ギターを演奏しています。J-160Eとは明らかに異なるジャラジャラしたサウンドで、シンプルなバックの演奏に厚みをつけたくてこのギターを演奏した...かどうかは定かでありません(苦笑)。この曲よりも先に「You've Got To Hide Your Love Away」のレコーディングで使用しているので、手に入れたばかりで何が何でも使いたかった訳ではなく、12弦ギター特有のサウンドを求めて使用したのではないでしょうか。使用されている楽器数が少ないので、ポールのベースの音が良く聞こえます。裏の引っ掛けや時折りスタッカートで変化をつけたりして、シンプルながら気の利いたプレーです。リンゴのドラムはAメロではリムショット中心の軽快な演奏(3回目のAメロは普通にスネアを叩いていますが)、ブリッジの両手打ち(スネアとバスタム)を挟んでサビではシンバルを打ち鳴らし、ポールのベース共々楽曲のノリを作っています。ジョージのギターについては、当時メインで使っていたグレッチ・テネシアンではないかと思いますが、『Beatles For Sale』での演奏に比べると結構ゴツイ音が出ています。ブリッジのフレーズは2弦3弦は開放弦のまま、4弦と5弦だけフレットを下降していきます。フレーズの面白さだけでなく、少々強引な転調の橋渡しをする重要なパートです。ジョージが考えたフレーズなのかは定かでありませんが、これを考えた人は天才だなって思います。モノラル盤とステレオ盤でこのフレーズの部分のミックスが異なり、モノラル盤はギターのみ、ステレオ盤は12弦ギターのボディを叩く音がプラスされてますが、モノラル盤の方の切り貼り感が凄く感じているのは僕だけでしょうか。

ジョンのヴォーカルは鼻から抜けるような感じで、やや愁いを帯びた歌い方です。元々ジョンは鼻から抜けるような歌い方をしているんですけど、歌詞の内容を意識してなのかパワーを抑えた分、鼻から抜ける感じがより強調されて聞こえます。冒頭のポールとジョージのシャウトは上下に分かれてますが、Aメロのコーラス・パートはビートルズには珍しくユニゾンです。しかもジョンのメインメロディを先導するように、2人のコーラスからスタートします。仕掛けが分かってしまえば大した事ないように思えても、こういうちょっとした工夫の積み重ねでビートルズの音楽は成り立っています。サビに突入するとポールとジョージのコーラスに代わって、力強さが増したジョンのヴォーカルが楽曲を引っ張り出し、ブレイク前にジョージ、ジョン、ポールの3声でハモった後に、ダメ押しとばかりにジョンとポールの高低が入れ替わります。

楽器演奏はオーバーダビングが少なく極めてシンプルなのに、リッチなサウンドに仕上がっているのは、ジョンのヴォーカルと2人のコーラスワークの素晴らしさ、そして何より楽曲が凄く良いということに尽きるのではないでしょうか。後年ジョンは、自分の切実な叫びをポップな楽曲に仕上げたことについて後悔のコメントを残していますが、ジョンのメッセージに見合ったアレンジにしていたら、楽曲としては面白味のないものになっていたのではと思います。ジョンのメッセージが未だに語り継がれているのは、楽曲がポップであったからこそだと思うのです。