本家☆にょじやまラーメン(音楽味)

ビートルズを中心に、音楽素人のディスクレビューです。

『Rubber Soul』その2

これまでビートルズは、アルバム収録用の新曲を準備してレコーディングに臨んでいました。しかしながら『Rubber Soul』のレコーディング前に行われたアメリカ・ツアーが終わった時点で、レコーディングできる新曲のストックがない危機的な状況でした。ビートルズにとってラッキーだったのは、『Rubber Soul』のレコーディング前にデビューしてから初めて1か月の休暇が与えられたことです。作曲しながらレコーディングを行う自転車操業状態ではありましたが、この1か月がなければ全曲オリジナルのアルバムは完成しなかったのではないでしょうか。レコーディング当初からビートルズのメンバーは全曲オリジナルにこだわったようで、ジョージ・マーティンからは「だったら曲を書け」と非常にシンプルなアドバイスを受けています(汗)。

全曲オリジナル曲ではありますが、以前レコーディングした曲を引っ張り出したり、仲間うちの冗談ソングを改良したものだったり、泥臭く曲をかき集めたのが実情です。そんな泥臭い舞台裏ではありますが、ジョン、ポール、ジョージが持ち寄った曲は、揃いも揃ってこれまでのビートルズの作品とは一線を画すものばかりでした。いや、全曲がそうとは言いませんが(苦笑)、3人のコンポーザーが規格外の楽曲を用意してきたのは事実です。特定のメンバーだけが飛びぬけた成長したのではなく、メンバー4人が同じ方向性で成長を遂げていることに感動すら覚えます。

前述の通り、曲を作りながら自転車操業でのレコーディングではありましたが、約1か月ものレコーディング期間が与えられたのは初めてのことでした。これまでは短いレコーディング期間でテイク数の制限もありましたが、今回のレコーディングは約1か月しかも深夜まで時間を使うことができたおかげで、楽曲のアレンジやサウンドメイキングなど実験的な取り組みができるようになりました。メンバーの風変わりなアイデアを、「そんなの前例がない」とか「セオリーに反してる」と一蹴しなかったジョージ・マーティンやエンジニア達もエライと思います。面倒な要求をしてくるビートルズに対し、本音の部分でどう思っていたかは知りませんが(苦笑)、ビートルズのアイデアを実現させた大功労者だと思います。

ポールがリッケンバッカー4001Sを使い始めたのが、このアルバムからです。前述のアメリカ・ツアー中の8月に、リッケン・バッカーの社長F.Cホールから贈られたと言われています。ホロウ・ボデイ特有のマイルドなサウンドのヘフナーに対し、ソリッド・ボディならではの重くて硬いベース・サウンドに変化しました。それに加えてレコーディングの行程に変化がみられ、ベーシックトラックでポールがベース以外の楽器を演奏し、後からベースをダビングして楽曲を仕上げることが増えてきました。バンドで演奏するベーシックトラックとは異なり、(時間やコストの制約がなければ)納得できるまで何度も繰り返せるオーバーダビングでベースを録音することで、想像力溢れるフレーズが増えてこれまで以上に楽曲への影響力が増しました。ジョンとジョージは、前作『Help!』に続いてフェンダーストラトキャスターをメインのエレキギターとして使っています。3人が揃ってソリッドタイプの楽器を使い始めたのが今作からで、次作『Revolver』のサウンド作りの布石になっていると思います。

そしてリンゴのドラムが目覚ましい進化を遂げています。これまでのリンゴのドラムの特徴は、他のメンバーを気持ち良く演奏させることに長けている点でした。今作で聴けるリンゴのドラムは、今までの特徴はそのままに、楽曲のテイストに合わせた変幻自在のフレーズを披露しています。いや、ドラムが合わせてるのではなく、ドラムに合わせていると言った方が正確か。恐らくジョンやポールから、場合によってはフレーズの細かいところまで注文があったと思いますが、時には無理難題な注文にも応えたリンゴが偉大なんです。「Norwegian Wood」「You Won't See Me」「The Word」、シングルの「Day Tripper」「We Can Work It Out」辺りは飛びぬけて素晴らしいと思います。

EMIとの契約に則り製作した作品ではありますが、今までの作品より曲作りとレコーディングに時間をかけることができ、曲作り・楽曲のアレンジ・サウンド作りなど全てにおいて、得るものの多かった作品ではないかと思います。デビュー以降ツアーに明け暮れ、間に2本の映画製作を挟み、疲弊しきっていた彼らにとって、ステージ活動に代わる新たな楽しみの発見だったのではないでしょうか。レコーディングに活路を見出したビートルズが次のステップに踏み出した、記念すべき作品だと思います。